「ゾロ、愛してるぞー!んーv」
「…っ、ふ……はぁ、…しつけぇぞ!さっさと飯の支度しろ」

冷てえの、とふて腐れながらクソコックはキッチンへ向かった。
この頃のサンジは異常だ。
人前気にせず、前にも増してくっついてくるわ、キスしてくるわ、…昼夜構わず盛るわ。こっちの身にもなれってんだアホ。もう一眠りしようかと柱に寄り掛かった所で船中にアホな声が響き渡った。

「んナ〜ミさ〜ん、ルォビンちゃ〜ん御飯だよ〜!あと残りの野郎と愛しのゾロ〜」

頭が痛てぇ…。
贔屓だ!と騒ぎ立てるルフィ、ウソップ、チョッパーだが、サンジの飯に勝てるわけもなく、あっさりと引き下がって大人しくテーブルに座った。
確かにクソコックの料理の前じゃどんな奴も大人しくなりそうだが…面白くねぇな。
いつも通りの賑やかな食卓の中、サンジがナミに紅茶を注ぎながらメロメロと喋りかけている。

「ナミさんは7月3日だよね〜?」
「あら、覚えていてくれたの?サンジくん」
「あったり前だよ〜。因みにロビンちゃんが2月6日だよね」
「ええ、ありがとう」
「「「俺達は!?」」」
「あぁ?面倒くせぇなぁ〜。肉食い5月5日、鼻4月1日、非常食12月24日」

おぉ〜っと歓声が上がっている。
どうやら誕生日の話らしいが、そんなん覚えていて何が偉いんだ?人の事なんて覚えていて、物好きな男くらいしか思わねぇけど。
何となく面白くなくて、ふふんと誇らしげなクソコックをぼんやり見ているといきなり目があった。
しまったと思ったときにはもう遅く、何時ものイヤミが飛んでくる…気配がなく、代わりに不思議そうな目を向けられた。

「んん?お前は…いつだっけ??」

シンとなるキッチン。
別に覚えていて欲しいなんて思ってない。これが普通の反応だろ?
オレだってコイツの誕生日なんて知らねぇし…所詮、その程度って事だ。

「…ごちそうさん」

まだ少し残っている飯をルフィの皿に移し、箸を置いた。
声を出すのが苦しいのはなんでだ?
早く一人になりたいのは何でだ?
オレは足早に船尾へ移動した。うしろであいつらが何か話していたが気にすることもせず。

「…意地悪ね」
「それも生き甲斐ですから」
「ダシに使わないでくれる?
「ゾロも可哀相に…」
「ごめんねvナミさん」


寝るにも寝付けず、真っ暗な海に向かってがむしゃらに刀を降りまくった。
こんなんが鍛練になってるなんて思わねぇけど…ただ体動かしてたかったから。
それにあいつと一緒にいたくなかった。
確か今日の見張りはウソップだったな…交代してやるか。
刀を鞘に戻して、見張り台への縄梯子を昇った。
今日の空は月も星も出てなくて、海と空の境界線が見えず、広がるのは黒ばかり。
オレはどうしてかこーゆー日の方が落ち着くんだよな。人の血に濡れて、黒くなったオレには月や星の光でさえも眩しすぎる。
似合うのは誇れる光ではなく絡み付く闇。求めるのは綺麗な勝利ではなく貪欲な最強。そして憧れるのは…。

「…何でてめぇが来るんだ?今日はウソップだろ」
「代わったんだよ。あいつ食い過ぎでチョッパーストップかかってよ〜。ま、ついつい食い過ぎちまう程、オレ様の料理がクソ上手いのがいけないんだけどなぁ…ってゆうか、オレは何でてめぇがウソップを待ってんのかの方がクソ気になるんですケド?」

食い過ぎだぁ…こんなときに限って…内心で舌打ちして少しウソップを恨んだ。
なんでわざわざ二人きりになっちまうんだよ。なんか体ん中がムズムズして気持ちわりぃ…叫びたいような、走りたいような…泣きたいような。訳わかんねぇ!
こいつが見張りならここにいる意味ねぇ。部屋に戻って寝るだけだ。

「…寝る」
「まぁ、待て待て。月見酒…とはいかねぇが、付き合えよ」
「…気分じゃねえ」

オレの体重を支えた縄梯子がキシリと音をたてた。
そのまま降りて、寝て、明日になればすっきり忘れるはずだったのに…あのアホが手なんか握るから。
そのまま降りることも出来ずに離せ、とばかりに睨みつけた。
だが、そんなこと微塵も効かないサンジはニヤケ顔でオレの手をグイグイ引っ張ってきたので、仕方なく見張り台に戻った。
向かい合うように座り、今だニヤケるアホコックにイラついてふいっとそっぽを向く。
ガキっぽい態度でバツ悪かったけど…ニヤケるアホが悪い!

「ふっ、くくっ…そう拗ねんなよ〜」
「…誰が」

そっぽをむいたまま言い放つと、サンジが吹き出して声を出して笑いやがった。
恥ずかしさからカァっと体中が熱くなって、冷静さを失ったオレは衝動的にサンジの胸倉を掴み上げてぶちまけた。

「お前がっ…!……好きだって言うくせに…誕生日も知らねぇって……」

なんでオレがこんな思いしなくちゃいけねぇんだ!女々ったらしい…。
胸倉を掴んだ手はそのままにガックリと首を落とす。
顔見られたくなかったし、見たくもなかったから。
突然シャツを握っている右手が暖かいものが触れて、はっと顔を上げたらすっげー笑顔のサンジの両手に包まれてた。

「12時過ぎたな…誕生日おめでとう、ゾロ…」
「…え」
「知らねぇ訳ねぇだろ…お前が余りにもオレに無関心だから…オレだって好きな奴には興味持ってもらいてぇよ」
「何…」
「だってよぉ、お前…オレに好きって言ってくれたことないんだぜ?……オレだって心配になったりするって…」
「…そっ……っ!」
「わぁかってる。さっきの言葉で十分だ…HAPPY BIRTHDAYゾロ。オレな、この日をてめぇと祝えた事…ホントに…すげぇ嬉しい…」

シャツを掴んでいた手を優しく外して、サンジはそのまま手の甲に唇をあてた。

「……お…れも…」
「……うん。ゾロ、愛してるぜ」




2008/11/11
HAPPY BIRTHDAYゾロ