滴と化した紅い愛



間違っていたのは俺のほう。愚かだったのは俺のほう。
・・・それでも信じたかったのだ。
神の一族である壬生を・・・俺の師である吹雪様を・・・。







頬に感じた雫の冷たさで目を覚ました。
視界に入るものはゴツゴツとした岩の壁しか見えない。聞こえるのはピチョンという雫の音のみ。
俺は横たわったまま未だはっきりしない意識の中で記憶を辿った。
確か、螢惑と一戦交え、鬼目の狂に破れ…吹雪様に太白の死の事や壬生一族の正義・・・壬生一族こそが正しいのだと確かめに行った。
それから・・・それから・・・・・・。

刺された。

意識がはっきりと覚醒すると勢いよく起き上がった。と、同時にズキンと腹が痛む。
手当はしてあるが、うっすらと包帯に血の跡がついている。
これは・・・吹雪様に刺された傷。
本当に?
誰かが吹雪様に成り済まし俺を刺したのではないか?吹雪様がそんなこと・・・するわけない!太白を殺し、自分に刃を向けたなんて!!
あの御方は偉大だ。壬生の事を第一に考えていらっしゃる・・・・・・・・・だからか?俺が壬生を疑ったから・・・信念を揺るがせたから・・・。
痛む傷でなんとかはいつくばり格子に縋り付く。
我ながら情けない姿だとは思う。だが、今はそんな事を気にいている場合ではない。一刻も早くここから出て・・・もう一度吹雪様に会わねば!
手に力を込め木格子を壊そうと試みた。だが・・・

「これは、吹雪様の結界・・・・・・」

これでは一筋縄ではここから出られない。
重傷をおい、力のでない今の俺ではとても・・・・・・・・・っ、それでも!思いきり力を込め木格子をぶち破ろうと水龍をだした。
バチバチッと大きな音を立てて水龍が結界にぶつかる。だが、すぐに俺の水龍は掻き消された上に木格子は無傷。
やはり吹雪様の結界を敗れるはずないか・・・っ!げほっ、げほ・・・はっ、はぁ・・・。
無理をしたせいか大量の血液が吐き出され、意識が眩みそうなほどの激痛に襲われそのまま地べたに倒れ込んだ。
くそっ・・・ここで気を失うわけには・・・。
必死に唇を噛み締め力の入らない手で格子を掴む。
その時、誰かの陰が俺の前に現れた。
その足元と気配は幼い頃から知っている。

「余り無理をするな」
「ふ・・・ぶき、様」
「早く治るように術はかけてあるが・・・」

吹雪様は俺の身を あんじてくださっている。やはりあれは、吹雪様を象った何者かの仕業だったのですね!!

「殺すつもりでやった。生きているのが不思議なくらいだ…」
「・・・・・・ぇ・・・」

今・・・吹雪様、なんと?やはり・・・あれは吹雪様の御意識なのか。
俺が信じていたのは何だったんだ。
壬生に忠誠を誓ったあの志はまだこの胸にある。未だに吹雪様をも信じ、師と思う。・・・それなのに。

「何故・・・です」
「壬生を疑う者など、もう壬生の戦士ではない」
「では、何故助けてくださいました・・・。私は、もう壬生一族に・・・あなたに忠義を払えないというのに・・・」
「・・・それはどうか」

口角だけを上げて微笑する吹雪様は、次の瞬間音もなく木格子を擦り抜け、俺の前で屈んだ。
どんな動作も舞のごとく軽やかで、無駄がない。
しなやかな手つきで優しく頭を撫でられ、何故か・・・泣きそうになった。

「お前はまだ壬生を捨てられはしない。オレがそう教え込んだ・・・もちろんオレへの義もだ」

読まれている。
そうだ、棄てられるはずがない。幼い頃からの憧れと信仰。
・・・いっそ、全てを棄てて飛び出せば楽なのかもしれない・・・あの雲のように。
俺を壬生の鎖から開放してくれたやつのように・・・。
しかし、それも一時的なこと、こうして吹雪様を目の前にすれば鎖は何度でも俺を縛ることができる。
決して俺の中から消えることのない鎖の先を握っているのは・・・吹雪様。
この二つを消すということは、今までの俺さえも否定してしまうようで・・・怖かった。
そう思うと堪えていた涙が頬を伝い、地面に跡を残す。
それを見た吹雪様は、頭を撫でていた手をゆっくりと額の前で止め、何かを呟いた。
手から発せられる光に体が包まれ、みるみるうちに痛みが消えていくのがわかる。
とても心地良く温かい光・・・。
光が消えると吹雪様は俺の両脇を抱え、起こしてくださった。まるで、小さな子供が高い高いされるように。

「・・・っ!?吹雪様、この辰伶もう幼き子ではありません!」
「・・・今のお前はただの泣き子にしか見えぬな」

どうにか降りようとバタバタと動くが吹雪様に力で敵うはずもなく、そのまま石の寝台に座らせられた。
吹雪様は流れる涙を止めることもできず、頑なに俯く俺の顎をクイッと上げ、あろうことか口付けを交わしてきた。
角度を変え激しく求められ、腰を引こうにも吹雪様にがっちりと押さえられ、ただ受け入れることしか出来ない。
酸欠による苦しさと初めての出来事の恐ろしさに、更に涙が流れる。

「ふっ・・・や!んぅっ・・・」

荒い息遣いと淫猥な水音だけが響き渡る。
吹雪様の背中を何度も叩いたがまるで効かず、そんな抵抗さえも楽しむように深く口内を貪られた。
ようやく開放されたときには全身が奮え、力が入らないほどだ。
虚ろう俺のことを微笑を浮かべ見下ろしている吹雪様はゆっくりとご自分の着物を脱ぎ、石の寝台にひかれた。
そして俺の肩を掴みそのまま負担のかからないように後ろに倒され、吹雪様に組み敷かれる形になった。

「吹雪様・・・一体なにを・・・」
「直に石では痛いだろう」
「・・・確かに・・・・・・いや、違います!この態勢や先ほどの・・・せ、接吻・・・のことです」

語尾のほうに行くに連れだんだん声が小さくなっていく自分が恥ずかしい。

「嫌だったか」
「・・・・・・・・・そう・・・では」
「では、よかろう」

吹雪様は俺の耳元でそう囁かれたあと優しく甘噛みされた。
きっと今の自分は今まで見たこともないくらいに紅潮しているだろう。
大体吹雪様が悪い。いきなりあんな・・・次に会えばもう一度お聞きしたいことが・・・・・・そうだっ!

「吹雪様!お聞きしたいことが・・・何故太白を!?」
「またそれか・・・辰伶、俺の言葉に偽りはない。同じ事を二度聞くな」
「・・・・・・なぜ?なぜ!?・・・っ、嫌です!!離してください!」

急に吹雪様の全てが怖くなった。
いや、今までも怖れは感じていたが、それとは全く別の恐怖感。怖くて恐くて大暴れした。
止まったと思っていた涙までまた零れてくる、が、今はそれどころではない。
一刻も早く吹雪様から離れたかった。
だがその動きを征するかのように先ほどのような深い接吻をされ、情けなくも抵抗できなくなった。

「んんー!・・・はっ・・・ゃ・・・嫌です」
「・・・辰伶、俺を拒むな」

強く発せられた言葉に身を強張らせていると吹雪様は俺の下半身・・・先ほどからの接吻で誇張しつつあるそこを布ごと摩り上げて来た。

「あっ!なぁ・・・ぅああ」

吹雪様の手を掴み動きを止めようとしたが全く力が入らない。
だんだんと動きを早められ信じられないような声を発し、腰が動き息も粗くなる自分に戸惑うが止めることが出来ない。

「んあ、あぁ・・・ふぅあ、や・・・やぁっ、も、イ・・・あぁぁ・・・ひやぁぁあ!」

何かが弾ける感じに大きく背を反らせ一際大きな声が出たかと思うと下着の中がじんわりとした不快感に包まれた。
しかし、それ以上の快楽感。頭がぼんやりし何も考えられずただ粗い息をつくのみ。
吹雪様は満足そうに俺を見つめ、その直後一気に着物を奪い取られた。
一糸纏わぬ姿を吹雪様に曝し、羞恥心からどうにか羽織るものを手に入れようと奪い取られた着物に手をのばした。
だが吹雪様はその手を掴み手の甲に口付けを落とし、そのまま唇を指先へと移動させ俺の中指をくわえられた。
指の間までしつこく舐められその感触にまた下半身が熱くなるのを感じる。唇が離され両足を左右に広げられた。
精一杯閉じようとするが全身に力が入らない。
俺の手が導かれるように動かされる。
片手は俺自身を握るように掴まされ耳元で「離してはならぬぞ」と囁かれた。
もう片方の吹雪様の唾液で濡れた指は更に奥に伸ばされ、次にされることに予想がつくと全身を強張らせた。

「吹雪様っ、止めて、くださ・・・・・・っあああ、あ」

一度も触れたことのない後蕾に自らの中指が侵入していく。
痛み、羞恥、情けなさ・・・そして、ほんの少しの快楽。
全てが混じり合いまともに何も考えられない。
吹雪様は俺の腕を前後左右に激しく動かした。
先ほど自ら出した精と絡み合い、グチュグチュと聞きたくない音が辺りに響く。

「ひ!あ、ああー!はぁぁ、ひぃっ・・・ああぅ、やぁー」
「己の中はどうだ?熱くてよく締まるだろう?その手も離すではないぞ」
「・・・ぅ、あ゛ん!!やぁ!そ、こっ・・・いやっ、やー!!」

オレの指がある一点を掠めたとき全身に電撃が走った。
両足を大きくビクつかせ、口からは淫らな声と唾液しか出てこない。
焦点の合わない瞳が微かに微笑む吹雪様を捕らえた。
もはや喘ぐ事しか出来ない口で吹雪様の人差し指と中指をくわえさせられた。オレの口内を犯す指を必死に舐める。
オレの口からべとべとになって出た吹雪様の指が向かった先は・・・今オレ自身が指を入れている所。

「吹雪様っ!・・・なにを・・・んあああああっ」

一気に二本の指が侵入してきた。
今オレの中にはオレの指と吹雪様の指が一緒に入っている。

「ここがよかったのだろう」

吹雪様の指に先ほどの一点を強く擦られ、頭の中がスパークする。
その間もオレの手は休む事なく激しく動かされ、自身を握る手も勝手に動いてしまう。
もう、おかしくなってしまいそうだ!

「やぁぅ・・・あぁあっ・・・んあ、ひぃ、ひ・・・ひああああっ」

全身が大きく跳ね、俺のそこから熱が吐き出された。
自身を握る手にびくびくとした触感が伝わってくる。熱い・・・。
ずるりと蕾から三本の指が抜かれ、その感覚にぞわっと肌粟立つ。
吹雪様は放心状態の頭を軽く撫で、髪にくちづけを落とされた。
疲労感から指一本動かすことが出来ない俺を優しく抱き上げ、吹雪様の雫を零しながらそそり立つものの上に跨がされた。
吹雪様自身が蕾に当たる。・・・…っ、怖い!

「辰伶、何も恐れることはない。力を抜いてオレに全てを任せろ…」
「ふ・・・吹雪、さまぁ・・・あひぃああああっ・・・あ・・・・・・ぁっ・・・」

幼い頃感じた安心感に力を抜いたとこ、腰を捕まれ一気に貫かれた。
十分に馴らされたそこは、重力も加わって根本まで奥深くくわえ込んだ。
あまりの衝撃に言葉も出ず、大きく開いた瞳から涙がボロボロと零れる。
馴らされたといっても初めて大きな質量を受け入れるそこは、吹雪様のものを喰いちぎらんとばかりに締め付けた。

「やぁ!いたぁ・・・あ、あぁ」
「・・・っく、辰伶・・・力を抜け」

吹雪様の顔が快楽と痛みに歪む。
そんな顔は滅多に見ることが出来ないが、今の俺にはそんな余裕はどこにもない。
何も考えられず、だだ痛みに堪えることしかできない。
不意に吹雪様が身じろいだ。その振動が下半身にも伝わり、俺を軽く揺すらせた。

「・・・あぁ、んっ、んぅ」

先程とは違った鼻に掛かるような甘ったるい声が無意識に発せられた。
吹雪様は暫くの間腰を動かさず、苦痛に堪える俺の具合を見ていたがその声を聞き、徐々に動きを強めていく。
腰を捕まれ下に引かれたと思うとすぐ吹雪様に突き上げられ、背をのけ反らせ叫ぶ。
耳を塞ぎたくなるような激しい肌がぶつかる音と結合部から漏れるぐちゅぐちゅという音。

「ああ!ひぃんっ、あああっひっ、やだぁ・・・あ」
「・・・っふ、・・・ぅっ」

それよりも俺を駆り立てたのは吹雪様様がたまに漏らす声。
どんなに回りから淫靡な音が聞こえてこようと、その声だけは必ず俺の耳に届く。
吹雪様の声…好きです。

「いあぁっ!くるっ・・・何か・・・くるぅ、・・・あああっ」
「・・・我慢するな」
「ふ、ぶきさっ、ひぃん!あぁあ・・・うあああぁぁああっ」

一際大きな声を上げて抗うことの出来ないものに身を委ね、熱を吐き出した。
宙を見つめその余韻を味わおうとしたとき、また激しく吹雪様に突き上げられた。
達したばかりの身体はより快楽に敏感になり、全ての刺激が能に伝わる。
一度目はただ我無捨羅に突き上げられるだけだったのに対し、二度目はオレの1番乱れる箇所を確実に突いてくるような攻め方に変わった。

「まだ終わりではない・・・オレはまだ達しておらぬ」
「やぁ!やあー・・・ぅああっ・・・ひっ、っめなさ・・・あん」
「・・・辰伶?」
「ご、め・・・なさぁ・・・いあぁー!ごめ・・・さっ!ひあっ」

ただただ吹雪様に突き上げられるたび、喘ぎ泣きながら謝ることしか出来ない。
まるで、叱られて泣き謝る子供のように。
一体何に謝っているのか自分でもわからない。この行為を止めてほしいのか、少しでも吹雪様を疑ったことへの罪悪感からなのか…。
だが、もうどっちでもいい。
この行為は吹雪様がオレに与える罰。だとしたら、オレはそれを受け入れることしか出来ないのだから。

「あぅ・・・ふ・・・ぶき様ぁ、ああっ!ごっ、め・・・いああ!なさ・・・っひあ、ん」
「辰伶・・・お前は、私が手間を込めて育てた弟子だ。それが反乱因子であろうとも・・・ここなら私以外に誰も来ることはできない・・・。残りの人生、オレの為だけに生きるがよい」

吹雪様が何かをおっしゃっていたが、所々しか聞き取れない。
もうオレの理性のかけらは粉々に崩れ、更なる快楽を求めることしか頭になくなっていた。
自らも腰を揺らし、吹雪様の男根をより深く加え快楽を貪る。
もはや吹雪様をくわえるそこは感覚が麻痺してしまっているように思える。
それでも吹雪様から与えられる快楽を一つたりとも逃さないようにとキツク締め付けた。
突き上げられるたびに結合部から聞こえるぐちゅぐちゅとした水音が更に気持ちを高ぶらせる。
吹雪様の腰の動きが速くなり、限界が近いのだと感じた。

「ひぁあああ!・・・ご・・・なさ、いっ!ごめっなさぁ・・・あひぃ!もぅ・・・だっ・・・め・・・あぅっ!あああああー」
「辰伶・・・っ」

あれから何度も突き上げられ、吹雪様が満足したころにはオレの意識は暗闇に呑まれていた。
オレの意識が無くなっても吹雪様はオレを揺さぶり続けていたのが体中の痛みと跡を見ればわかる。
次に目が覚めたとき衣服の乱れや情事の跡、傷の手当は綺麗に直されており、吹雪様のお姿はどこにもなかった。
先程とは違うきものが敷いてある寝台から起き上がり、木格子を確かめる。そこにはやはり吹雪様の結界。
オレはまた寝台に腰掛け吹雪様のきものを手繰り寄せた。
ここで・・・吹雪様と・・・。
顔が熱くなり、動悸も激しく脈打つ。
そういえば…気を失う直前に吹雪様は何かをおっしゃっていたな。
心を沈め行為の最中の吹雪様の言葉を思い出そうとした。

「お前は、私が・・・・・・育てた弟子だ。それが不穏分子だろうとも・・・・・・・・・ここなら私以外に誰も来ることはできない・・・。残りの人生、オレの為に生きるがよい」

吹雪様の為に生きる・・・オレの人生なんて端から吹雪様のものですよ。
あなたを慕い、敬い、目標とし、今まで生きてきました。それは、これからも変わらぬでしょう。
仲間を殺され、オレ自身も殺されかけても・・・どうしても・・・・・・変えられない気持ちがある。
吹雪様に求められるのならば・・・もうそれだけでいい。
吹雪様だけに必要とされるのならば、もう何もいらない。
壬生一族も、生きた証も、信念も・・・忠義さえも捨てよう。
そうすれば、きっとまた来て下さるだろう。
それを思うだけでオレの心は嬉しい気持ちで一杯になった。