窓の外は白銀の世界がひろがり、人々は色鮮やかな防寒着を身につけあたたかい笑顔で話し合う。子ども達は朝から夕方まで雪にまみれ遊んでいる。
カゼをひかないのか・・・そう思いながらルークは布団の中から外を見る。
一行がケテルブルクについて二日目、ルークはカゼで倒れ今日で宿での生活二日目の目覚めを迎えていた。
熱も大分引き、明日には動けるようになるだろう。だから、今日は精一杯おとなしく寝ていなさい・・・とジェイドに言われルークはおとなしくそれを聞き入れた。
もう一眠りしようと瞼を閉じかけた時、軽くドアをノックしてガイやティア達が入ってきた。
 
「起きてるか?ルーク、調子はどうだ?」
「ん・・・もう結構平気だよ」
「よかった、ゆっくり休んではやく治してね」
「わかってる・・・みんなどこか行くのか?」
 
ルークはゆっくりと身を起しみんなの姿をみた。
部屋に入ってきた一行はいつもより着込み、武器やアイテムも持っている。
 
「ええ、この街での情報収集も大体おわりましたので街の外を捜索しようと思っていますの」
「まっ、何も無いと思いますが敵と戦って資金でも稼いできますよ」
「ルークはちゃんと寝てないと〜★」
「ああ、気をつけてな」
「誰かさんとは違うって」
「しかし、なんとかがカゼを引いてしまったので一応気をつけていきますよ」
「・・・なんだよ、それ」
 
イヤミともからかいともとれるジェイドに不機嫌な顔を向ける。
微熱の所為で少し紅がさす顔でそんな顔をされても全くこたえない。
逆にかわいいと思ってしまう。
いつもの何を考えているのか分からない笑みをうかべジェイドはまだ不機嫌そうなルークの額を軽く押してベッドに寝かせる。
 
「ほらほら、病人はさっさと寝てください」
「そろそろ行くか。じゃあなルーク、お大事に」
「じゃあね」
「ホント気をつけろよな」
 
ぞろぞろと部屋から出て行き、また静かな一人の空間ができた。
別に寂しいわけじゃない、ただ・・・。
ルークはゆっくりと瞼を閉じ、眠りの世界に溶け込んでいった。
 
 
 
 
 
ゴゴゴゴ・・・と屋根の雪が落ちる重たい音で目が覚めた。
寝ている間に随分と汗をかいてしまったのだろう、ルークの肌はしっとりと湿って気持ちが悪い。
着替えようとベッドから抜け変えの服を着る為に上半身の服を脱いだところで勢いよくドアが開いた。
 
「っっっ!!!?」
「よう、レプリカ。・・・!!お前、何で裸なんだ!?」
「着替えようとしてたんだよ!てか、なんでアッシュがここにいるんだよ!!?」
「所要でここに来ていたら・・・ジェイドだったか、あの眼鏡にこれを届けるように言われた」
「これって・・・苺?」
 
アッシュはテーブルの上に籠に大量に入った苺を置く。
その拍子に2,3個テーブルに転がった。
ルークはそれを手に取りぱくんと口に放り込む。
 
「甘くてうまい!ありがとな、アッシュ!」
「・・・礼ならジェイドに言え」
「そうだな、帰ってきてから言うよ。お前も食えよ〜、じゃないと全部食っちまうぞ」
「いるか。それよりもさっさと服を着ろ!!」
「・・・っくしゅ!」
「!のろのろしてないで、さっさとしろ、屑!!」
「・・・わかったよ」
 
ルークはアッシュに背を向け変えの服に袖を通す。
そして、そのままアッシュに目もくれずベッドの中に潜り込んだ。
 
「・・・おい、レプリカ?」
「・・・」
 
頭まで毛布で包まりアッシュの言葉を無視する。
いきなり不思議な行動にでたルークに少しの苛立ちと戸惑いを覚えアッシュはため息をこぼす。
アッシュのため息が聞こえたのかルークは布団の山をぴくりと揺らした。
どうしたものか・・・アッシュは少し考えルークのベッドに腰掛けルークの背中に手をかけた。
 
「何の真似だ?」
「・・・」
「いい加減にしろ」
「・・・っ」
「・・・いつまでもそうしてろ!邪魔したな」
 
冷たく言い捨てられ近くに感じていたアッシュの重みがフッと消えた。
コツ、コツと足音が遠のく。
ルークは毛布をギュッと握り締め、心臓が締め付けられる思いと瞳から溢れそうになる熱に耐える。
コツ・・・と足音が止まりドアの前まで来たんだとルークは思った。
このままじゃアッシュが行っちゃう!そう思いルークは勢いよく毛布から飛び出しアッシュを追いかけようとした。しかし、その必要はないことにすぐ気付かされる。
ルークのすぐ目の前には追いかけようとしていた人物、アッシュが立っていた。
余裕の顔で見下ろすアッシュと驚きと気まずさで間抜けな顔で見上げるルークとで目が合う。
 
「やっと出てきたか」
「おまっ・・・なん、ドアのトコまで行ったんじゃないのか!?騙したな!」
「そうでもしないと出てこないだろう」
「・・・お前が・・・いるなら出てこなかったのに・・・」
「だが出てきたではないか」
「それはっ!アッシュが・・・」
「俺は何もしてない」
「・・・」
「まただんまりか?」
「そんなんじゃっ・・・!」
 
俯き唇をぎゅっと噛み、泣くのを耐える。
力を込めすぎた唇が赤く染まり痛いたしい。
アッシュはテーブルの上の苺を一つ銜え俯くルークの顎を掴み、無理やり口付けた。
いきなりのことで驚いたルークは身を引こうとしたが、背中と後頭部に回されたアッシュの手で身動きがとれない。
 
「ん!アッシュ・・・カゼ・・・う、つる!」
「そんなもんひかねぇ。黙ってろ」
 
アッシュの口から苺の破片が流し込まれルークは熱さと甘酸っぱさに酔いしれる。
カゼの所為か頭もボーっとする。
深く深く口内を探られ息を付く暇も与えられない。
たまに角度を変えるときに出来る合間だけがルークに酸素を与える。
 
「はぁ・・・ふぅぅ!苦しっ・・・んん」
 
長い口付けが終わったときルークは酸欠でぐったりとしていた。
口角から滴る唾液をごしごしと拭き、耳まで真っ赤にしてアッシュを睨む。
アッシュは唇をぺロリと舐め、意地悪く微笑んでいた。
 
「な、なんのつもりだよ!いきなり・・・こんな」
「それはこっちの台詞だ!俺のこと無視しやがって・・・そんなに俺が嫌いか?」
「違っ・・・!アッシュこそ俺のことが嫌いなんだろ!!?」
「は?なんでそうなる!?」
「だって、俺のこと屑って言うし、さっきだって服着なかっただけで凄く怒ったし、こんな・・・嫌がらせだって・・・するし」「・・・」


耐え切れずルークの緑青の瞳から涙が零れ落ち、ポツッと音を立ててシーツに染みを作る。アッシュと目を合わさないように下を向き、シクシクと泣くルーク。
今まで本気で泣かせたことなどないアッシュは内心どうしたらいいか焦っているがポーカフェイスを崩さずルークの頭を優しく撫でた。
 
「・・・なんだよ!!っ、子ども扱いするな」
「今のお前はどうみてもガキにしか見えん」
「ぅ〜・・・もう出て行けよぅ!アッシュなんかぁ・・・」
 
ルークがアッシュの手を振りほどこうと暴れだした。
アッシュはルークの頭の上の手に力を込め自分と目が合うように上を向かせる。
 
「俺には嫌いなヤツの所にいるほど暇な時間はない」
「・・・・・・ほ・・・と?」


アッシュの瞳を射抜くように見つめルークが首を傾げる。
ルークの頭から手を動かしアッシュはコクンと頷く。と同時にルークに引き寄せられ2人でベッドに倒れこんだ。
 
「っ!おい」
「・・・ぅ・・・グスッ」
「・・・」
 
アッシュは驚きながらも自分の下でまた泣いているだろうルークの頭に口を寄せる。
ふわりとルークの香り。
柔らかな髪を撫でながらその香りを満喫する。
静かな空間で聞こえるのはルークの泣き声だけ。
アッシュはルークの耳元まで口を持っていきペロリと舐め、呟く。



「もう泣くんじゃねぇ」
「・・・ぅん」


ルークはズズッと鼻をすすりアッシュの背中に回している手を離そうと力を抜く。
その瞬間アッシュは自分でも信じられない言葉を口にしていた。


「・・・離すな」
「・・・うん」


ルークの両手が背中に戻される。
さっきよりも強く強く抱きしめる。
ルークは味わったことない安心感と温かさと愛しさを抱きしめながら瞼を閉じた。









次に目が覚めた時、アッシュはいなかった。
いつの間にいなくなったのか・・・ルークはそんなことを考えながらベッドに寝そべっていると、



「たっだいま〜!」
「アニス、静かに。まだルークが寝ているかもしれないわ」



と、元気なアニスと静かなティアの声と共にドアが開く。



「おかえり」
「起きていたの?体調は・・・?」
「もう完全復活!」
「よかった」
「心配かけて・・・悪かったな」
「いえいえ、それほど心配してないですから・・・おや、これは・・・」
「あ〜!苺だっ。おいしそう!!」
 
ジェイドがテーブルの上の苺に近づくと、アニスも駆け寄り苺を手に取る。
 
「あ、それありがとうな。ジェイド」
「私・・・ですか?」
「アッシュが届けてくれたんだ。ジェイドからって。すっげーうまかった」
「・・・ふむ。なるほど・・・」
「??」
「なんでもありませんよ。よろこんでもらえて光栄です」
 
ジェイドがにっこり微笑む。
それにつられルークも微笑む。
ふいにガイが近づきキシリと音を立ててベッドに座った。
 
「ルーク、お前首どうしたんだ?なんか赤い痣ができてるぞ」
「?別になんともないけど・・・」
「・・・・・・さっき、アッシュが来たとか言ってたな」
「うん、けど俺が寝てるうちにどっか行っちまってよ〜」
「そうか・・・」
 
ぽつりと呟くガイと背中をむけ考え込んでいるジェイド、微笑んではいるがどこか殺気立つイオン。
ルークには訳がわからない。
くるりとジェイドが振りかえる。
 
「まぁ、とりあえず明日まではゆっくりしていてください」
「そうね、そのほうがいいわ」
「では私達は行きましょうか」
「ああ、また明日からはしっかり戦うぜ!」
 
ルークを部屋に残し、ティア達も自分の部屋に戻ろうとエレベーターに向かうがいつの間にか
ガイ、ジェイド、イオンがいなくなっていた。
フロントに聞いてみると凄い殺気を迸らせながら足早に出て行ったとか・・・
 
「もぅ〜、どこ行っちゃったんだろ?」
「・・・どうせアッシュでも探しに行ったんでしょう・・・まったく」
「まぁ、私も探しに行きたいですわ」
「止めた方がいいよ〜、それよりおいしぃもの食べに行こうよ★」
「そう、ですか?そうですわね、行きましょ」
「・・・アッシュ、がんばりなさい」
「ティア?どうかなさいました?」
「なんでもないわ、行きましょ」
 
三人がアッシュを見つけられずイライラしながら帰ってきたのは夜も更けた12時過ぎのことだった。