「ゾロ、これやるよ」
いつもの様にゾロの働くラブホに来ていたサンジは帰り際に一枚の紙を差し出した。
首を傾げるゾロに渡したのは、ただの紙切れに描いた雑な地図。
受け取ったゾロは地図をマジマジと見つめ、「なんだよ?」と更に首を傾けた。
「お前、日中はヒマしてんだろ?そこに来たら最高の昼飯食わしてやるよ」
「…お前が、か?」
「あ?言ってなかったか?オレ超一流のコックなんだぜ?」
あのサンジがコックだって…なんか想像つかねぇ。しかも自分で超一流とか言って…胡散くせぇ。
次の日、早速地図の場所へ向かうためにオレは今見知らぬ土地を歩いている。
確かに言われた駅で降りて、地図の通り歩いているつもりなのに…全く辿りつかねぇ。
こんな木ばっか草ばっかの所にレストランなんてあんのかよ?っつーかココ何処だよ?
昼前に家を出たはずなのに太陽はもう低い位置で赤く辺りを照らしている。
もう帰らねぇとバイト間に合わねぇ…クソ、結局昼飯食いそびれた。
腹減った…。
思った通り、夜ホテルに来たサンジに「何で今日来なかったんだよ?」と詰め寄られ、オレは口を接ぐんだ。
迷ってた、なんて言える訳ねぇ!
「明日は…行く」一言呟くとサンジは「絶対だぞ」と昨日より丁寧な地図と携帯の番号が書いてある紙をカウンターに置いて帰っていった。
今日は女と約束はなかったんだ、とか、実は待ってた?とかいろんな疑問が浮かんでは消えてく。
悪い事しちまったかな…丁寧に細かい所まで描かれた地図を見て明日は頑張って行ってやろうって本気で思った。
昨日より2時間早く家を出た事と、新しい地図のお陰で街らしい所にはたどり着いた。
でも、それらしきレストランなんて見当たんねぇぞ?あちこち歩き回って流石に疲れて適当なベンチに座り込んだ。
電話…かけたほうがいいのは分かってる。
でもオレ携帯なんて持ってねぇし、近頃は公衆電話なんて滅多に見ねぇ。
空に向かってため息を吐いてダラリとベンチにもたれ込む…この歳で迷子って、どうしたもんか…。
「お?ゾロじゃねぇか?」
「?…おっ、オーナー!?」
「シャンクスでいいって言ってんだろ?敬語もなし。んで、な〜にやってんだ、こんな所で」
「…ココに行きたいんスけど…」
地図を…しゃ、シャンクスに渡すとぶはっと吹き出された。
辺りに響き渡るシャンクスの笑い声に通行人が何事かと振り返る。
「お前迷子か!?」
「…っく…」
恥ずかしくて俯いてるとシャンクスが頭をぽんぽんと撫で、手をぐいっと引っ張って歩き始めた。
「知ってっから連れてってやるよ。オレも用あるしな」
「あ、ありがとうございます!」
ずっと繋ぎっぱなしの手が気になったが、また迷子になるから、と言われ大人しく成すがままにしておいた。
「ココだ」
「!?」
目的のレストランは迷っていた所から差ほど離れておらず、おしい所まで来ていたんだ。
っつーか一回前通ってたし…そんなことよりも驚いたのは、レストランっつーからファミレスみたいのを想像してたけど…ここホテルじゃねぇか!!しかもすっげーでけぇ…。黒くて長げぇ車とか停まってるし。
「オレッ、入れねぇ!こんなカッコで…金もあんまねぇ」
「オレだって同じよ〜なカッコだ。金は…まぁ大丈夫!」
何が大丈夫なんだよ?
シャンクスに手を引かれロビーに入る。周りは皆キチッとしたスーツを着込んでいて…Tシャツジーンズのオレは明らかに浮いてる。
シャンクスだって場違いなカッコしてるのに…全く臆する事なく堂々と真っ直ぐ歩いていく姿が凄くかっこいい。
「ゾロ、前向け。別に悪い事してるわけじゃねえんだ。オレは自分ってやつを、上辺だけ飾っていい気になるやつが嫌いでね。オレはオレだ」
「…シャンクス」
こーゆーのが男も惚れるカッコイイ男ってゆぅのか…オレもなりてぇ。
顔を上げると「いい子だ」って子供みてぇに褒められて、でも嫌じゃない感じに頬が緩んだ。
連れてかれた場所はホテルの最上階の見るからに高級そうな展望レストラン。
ボーイに案内された場所は普通のテーブル席じゃなくて、また見るからに豪勢な個室で街の全景が見えるような大きな窓までついている。
差し出されたメニューを見ても何が上手いのかよく分からず、シャンクスに全て任せることにした。
余りにもスラスラと料理を注文する姿に初めてではないとは思った…こんな個室に案内されるんだ、きっと常連なんだな。
「シャンクスは、ここよく来るのか?」
「ん〜…まぁね」
含みのある返事が気になったが、運ばれて来た料理の綺麗さに目を奪われそれ以上追求はしなかった。
オレは料理なんて出来ないけどコレは凄いと思う。見た目も味も料理に篭った思いも、全てが交わりあって…一つの芸術品みたいだ。
「すげぇうめ…こんなん食ったの、初めてだ」
「その言葉、あいつが聞いたら喜ぶぞ」
「…あいつ?」
「ゾロも知ってるやつ。もうそろそろ来るんじゃないか?」
途端、高級な雰囲気の部屋には似つかわしくないドタドタとした足音が近ずいて、ノックも無しに扉がバンと開いた。
そこにいたのは白いコックみたいな服着て、息を切らしたサンジ。
今まで見た事ないような笑みを浮かべてオレの近くへと駆け寄って来た。
「ゾロ、やっと来たか!」
「サンジ!?……まさかコレお前が…?」
「おう、クソうめぇだろ?」
ふふん、と鼻を鳴らし満足感を体中から漂わせるサンジは、何時もの大人びた雰囲気とは違い無邪気な子供の様に見えた。
いい加減で、女ったらしで、口は悪くて、未成年で煙草すって…でも、そんな男が作った料理は人をこんなにも感動させることが出来る。
ガラ悪くても、違反してても、人を喜ばせたいってゆう心は本物なんだ。
初めてサンジという人間に憧れと尊敬を持った。
「お前…すっげぇなぁ!」
素直にそう思って、それを伝えた。
そして同時に自分を情けなく思った。オレなんて何も出来ない。何も作れないし、何も与えることもできない。
ぽつりと口から出た言葉に自分でも悲しくなった。
人を喜ばせたいとか、笑わせたいとか思ったことはない。ただ毎日を何となく生きているだけで……そう思うと今まで縮まってきたサンジとの距離がまた一気に開いたように思えて。
「…オレもさ、お前見習って…」
「ゾロはさ、お婿さんになればいいよ」
「…は?誰の」
「オレの」
「…」
「自分で言うのも何だけど、オレオススメよ?料理は一流、家事も得意、稼ぎは上々、話も上手、ルックス最高。な?今がチャンスだぜ?」
そんな男がなんでオレなんかに構うのかよくわからない。
それに何がチャンスなんだ?
「オレをからかってんのか?」
「ちげーよ!オレは至って本気だ。…っつーか、お前に惚れちゃったみたいだから。婿に来い、ゾロ。嫁でも可」
両手を大きく広げるサンジ。
こんなアホみたいなこと言うやつなんか信じられるか!増しては無るいの女好きのくせに。
揚句、安月給のお前を養ってやる。とか言い出しやがって…(怒)
その安月給のホテルのオーナーが目の前にいるんだぞ。
キラキラとした表情のサンジにため息が込み上げてくる。
「…考えとく…」
このままお前と友人関係を保っていいのかを・・・。
裏で書いた小説の連作です。
ラブストーリーは始まりませんでした。
簡単にサンジを幸せにはしません。