まずい…。非常にまずい…。どうにかせんとオレの身体がもたない。
すっかり夜の帳が降り、秋の虫達が美しい音色を奏でている。
壬生の人々は寝静まり灯りといえば薄雲の夜空にぽつぽつと弱い光を放つ星や月…そして、螢惑の部屋くらいしか見当たらない。
一本の蝋燭の優しい明かりの中で辰伶は今、今日も今日とて螢惑に好き勝手弄ばれ布団の上でぐったりとしているところだ。
隣で辰伶を包み込むような態勢で幸せうに寝息をたてる螢惑の顔を見ながら真剣に考えた。
この頃の螢惑は見境というか…我慢がなさすぎる!昼間から無理矢理連れ出され強制的にその気にさせられ…くっ////!そのくせ夜になるとさらに激しく求めてくる始末だ。一日に異常な位抱かれ…こいつは性欲がぶっ壊れたのではないだろうか?それに付き合うオレの身にもなってみろ!
辰伶はだんだん憎たらしが積もり、安らかな寝顔の螢惑の鼻を摘んでやった。起きるだろうか…と少しの期待を込めて。
「…っんむぅ〜…」
螢惑の頭が左右に振られ意味のない言葉が口の中で発せられた。
どうやら苦しいのだろう。だが全く起きる気配はなく、邪魔なものを振り払おうとただ首を降るだけ。
その仕種が何故か可愛く見えると同時にさすがに可哀相になってきた辰伶はそっと手を離し、蝋燭の光に揺らめく金糸を優しく撫でた。螢惑の顔に笑みが零れる。頭を撫でられ笑うなど、子供のようだな…辰伶の心にくすぐったいような愛しさが込み上げてきた。
………はっ!いかんいかん、またうやむやにしてしまうとこだった!…どうもオレは螢惑に甘いような気がする…。
自覚は有るようだが、螢惑もそれを見通してやっていることには気がつかないようだ。
逸れた思考を元に戻そううと柔らかな金糸の感触に未練を残し、螢惑の頭からから手を離した。
螢惑が起きないように布団から抜け出しそっと廊下に出ようとした。
「…しん…れぇ」
「!け、螢惑…起こして……」
「……んむ…すーすー」
「…ないようだな」
布団を跳ね退けてでた螢惑の足を優しく戻し、今度こそ部屋を出た。
薄い月の光に照らされた庭はとても幻想的で思わず見とれてしまうくらいだ。
柱に寄り掛かるように座り、虫達の演奏に耳を傾ける。静かで心落ち着く時間が流れ、心底この壬生が好きだと改めて実感した。
ふと廊下の先に気配を感じ、和らいでいた心を引き締め、その気配に備えて立ち上がった。
「あら、辰伶。こんなとこで何してるんですか?…あぁ〜、ここは螢惑の部屋でしたっけ」
暗闇から現れたのは夜着姿の歳子。一瞬で状況を察知した歳子はからかうように辰伶に笑いかけた。
その言葉で辰伶の顔がぼっと赤くなるが、辺りの薄暗さのおかげで歳子にそれが伝わることはなかった。
歳子から顔を背け、話題を変えようと辰伶は慌てて口を開いた。
「…歳子の方こそ、こんな夜更けに何処へ行くつもりだ?」
「女の子に野暮な事聞かないでくださ〜い…辰伶、余り体調良くないみたいですよ?」
「…っ、わかるのか?」
「あったり前ですよ!私を誰だと思ってるんですか?体の事で分からないことなんてありませ〜ん」
踏ん反り返って自慢そうに胸に手を当てる。
一瞬迷ったが、この壬生であのような恥ずかしい話を相談できるのは関係を知っている(というか、探られた)歳子しかおらず辰伶は渋々今の状態とこれからの対処策を相談した。
最初は惚気にしか聞こえない話でさもつまらなそうに聞いていたが、対処策の話になったとき歳子の目がおもちゃを見つけた子供のように輝く。
「なぁるほど…つまり少しの間でも螢惑に落ち着いて貰いたいと…」
「ああ…」
「う〜ん…じゃあ〜、今度螢惑にされちゃったらこう言ってみたらどうですか?」
辰伶の耳元でごにょごにょと歳子が案を挙げる。
ぼんっと湯気が出そうなくらい辰伶の顔が赤く染まり、恥ずかしさで体が震えた。
「そんなこと言える訳無い!」
という辰伶の言葉は歳子の「これで少しの間は大人しくなると思いますよ〜。その間にいい薬作ってあげますって☆」という言葉に掻き消されてしまう。
提案と言うよりは反強制的に歳子の対螢惑文句を言う羽目になった辰伶は、どうしても螢惑の部屋に入れず自分の部屋に帰り、悶々と夜を過ごした。
結局、一睡も出来ないまま太陽は昇り、このまま悩んでいてもらちがあかないと思った辰伶はいつもよりか数時間早く出勤することにした。
朝もやの掛かる廊下を静かに歩き執務執務の障子に手をかける。
だが、開けることが出来ない。何故なら障子の向こうに今1番会いたくない大好きな人の気配がするから。
向こうにしても辰伶の気配にはとっくに気付いているだろう、それゆえここから去ることも出来ない。
心の平生を努めゆっくりと障子を横に引いた。そこには出窓に腰掛け鋭い視線を向けてくる螢惑の姿。
「辰伶…昨日の夜なんで自分の部屋帰ったの?」
挨拶も一言二言の会話もなく、ただ不機嫌さと不満だけを辰伶にぶつける。
朝は早いが、誰がいるかわからない…辰伶は一歩部屋に入り後ろ手で障子を閉めた。
自分に与えられた机まで普段通りに歩みを進め、普段通りに返答した…つもりだ。
「…少し気になることがあったので、確かめに帰っただけだ」
「嘘」
「っ、何故そう思う!?」
「辰伶この部屋入ってから一回もオレと目合わせなかったし…そーゆーときはなにかあるトキ」
確かに…螢惑の全てを見透かされているような真っすぐな目を見ることが出来ない。
見てしまえば歳子の計画がばれてしまうような気がして。
言葉に詰まり、どうにか良い返しを言おうと思考を巡らせていると、螢惑が動いた。
出窓から辰伶の文机の前に移動し無理矢理目を合わせようとする。
一旦目を合わせてしまえば反らせることを許さないといった螢惑の視線。
反らすことも、動くこともできないでいるといきなり胸倉を引き寄せられ、螢惑との距離が無くなった。
激しく深く口内を荒らされ、まともに呼吸もできない。
そして、唇を合わせたまま文机を跨いできた螢惑に組み敷かれ辰伶は何も考えられなくなった。
あと半刻もすれば太白が来る…辰伶は気を失いそうになる余韻に堪え、脱ぎ散らかされた服を集めた。
その間も螢惑は飄々とした態度で辰伶の動き一つ一つを眺めていた。
心底疲れきった辰伶に対し、先ほどの怒りも忘れすっきりとした螢惑に腹が立つ。
あまり羽織りたくない衣服を身に纏い、螢惑の前に立った。
言うなら今しかない!空気の読めない奴だと思われても…それでもいい!
「服、しわしわだね」
「誰のせいだと思ってる!?キサマとゆう奴は…ま、毎日毎日同じことを繰り返して…たまには違うこともできないのか!?それまでお前とはしない!無理矢理したら絶交だからな!」
「…とゆー訳。辰伶…いつも正統派プレイで、満足できなくなったのかな?」
「また、その話か。わしから言えば、お前さんが悪い」
螢惑はいつもの如く任務をサボり、結婚指輪のときお世話になったおじーちゃんの店に来ていた。
この頃は暇があればこの店に入り浸り、つまらない話や、のんびりとした時間を過ごしている。
おじーちゃんは螢惑の良き理解者となり、時には言い争いもするが、次来るときは二人ともけろりと忘れ、孫のように扱ってくれた。
螢惑もそれが嬉しく思う。
さて、今日も話題は「辰伶に満足してもらうプレイ」である。
「違うことって…どうしてほしいんだろうね?」
「相手さんが落ち着くまで控えたらどうじゃ?」
「…いまだってもう、22日我慢してんだよ?キスどころか触れてもないし…。なんか悶々して眠れない…もうオレむりー限界ー」
机に突っ伏したまま不満をたらす。
実はここまでいろいろな案が出てきた。
媚薬…使ってみたいけど何か可愛そうなので今回パス。
蝋燭とか縄、鎖…辰伶の綺麗な肌に跡つけたくない!
3P…論外!却下却下!!!
樹海の触手、獣姦…見てられない!樹海ごと燃やす!
等々…ことごとく、螢惑により却下されている。さすがのおじーちゃんも案が尽きた。
「もう考えつかんわぃ」
「えー!?このままじゃ溜まって死んじゃうー」
「それくらいで死ぬか……やれやれ。やはりアレはお前さん用か」
よいしょと腰を上げておじーちゃんが奥に消えて行った。
不思議そうに見ていた螢惑の前に出されたのは細長くて黒い紙箱。
その中に入っていたものは三つのおかしな物体。
一つ目は、黒色で、大きめの男性精器を模ってはあるが、周りにはいぼのような突起が無数ついている。
次のは最初のより一回り小さめでいたってシンプルな形のもの。
最後に桃色をした親指大程の楕円形物体。
螢惑は真ん中に置いてあるシンプルなつくりのものを手にとりまじまじと見つめた。
初めて見るおかしな物体に少し興味が沸く。
「こんなもん店先に出してはおけん…。お前さんとは分かっていても…出来ることならだしたくはなかった」
はぁ…とおじーちゃんは深いため息を吐き出す。
螢惑はそんなの気にせず物体をおじーちゃんにズイッと差し出した。
「これなに?どう使うの?」
「…これはな…バイブといって、ココを押すと…」
ヴィーーーー・・・
「わっ、動いた。すごいっ」
「すごいとな……そうじゃろ?すごいじゃろ。因みに遠隔操作も可能じゃ」
「さすがおじーちゃんの店だね」
「いやいや、なになに……因みに使い方じゃが……ごにょごにょ……」
螢惑は物体のスイッチを切って箱に戻すとキラキラとした目でおじーちゃんを見つめた。
おじーちゃんは内心不安だった。これはこやつのものだが、渡してしまって本当に大丈夫なんじゃろうか…相手が。と。
溜まりに溜まった我慢が爆発せんとは限らん…いや、こいつなら確実にする。危ない。しかし、螢惑に見つめられ…。
「……わかった!お前さんのものじゃ」
「わーい、ありがと。早速今日使ってみるよ。じゃあね、またね」
「相手を思いやる気持ちを忘れるでないぞー」
るんるんと穏陽殿に帰る螢惑の耳にはおじーちゃんの忠告は聞こえてこなかった。
本日の任務も滞りなく済ませた辰伶は自室で日課の読書をしている。
この頃は邪魔をしてくる螢惑が部屋に来ないため溜まっていた本を一気にかたずけることができた。
自室に持っている本は辰伶が今手にしているもののみ。最後の文字の羅列を読み終え本を閉じ棚に戻す。
もう、することがない。あいつが来ないと夜はなんて静かで長いのだろう。
思えば辰伶この頃調子が悪い。妙に苛々したり、かと思えばぼーっと呆けていたり…この前もこけそうになったところを遊庵に助けてもらっている。
歳才や太白、吹雪や村正なども心配して何度も部屋を尋ねてくる程だ。
「きっと疲れているのだろう…早く寝てしまおう」
辰伶はぽつりと呟くと夜着に着替えて床についた。だが数十分もしないうちに誰かが無断で部屋に入ってくる気配で起き上がった
こんなことするやつは一人しかいない。何故入って来れるのだ?鍵は掛けているはずなのに…。
「…無断で入るなと何度言えばわかる」
「しんれー。…久しぶり」
「何を言っている?先日も会っただろう」
「辰伶の部屋、久しぶりってイミ」
螢惑は大事そうに抱えていた箱を机に置き、辰伶の前に両腕を広げた。
なんだ?って目で訴える辰伶を引き寄せて抱きしめる。
「触れるのも…久しぶり」
「……そうだな」
辰伶の両腕が螢惑の背中に回され、嬉しくなった螢惑は浚に強く抱きしめる。
そしてそのまま辰伶を褥へ押し倒した。
「…っわ!何をする!?」
「辰伶、オレ頑張って探したんだ。これならきっと満足すると思う」
「……何の話だ…こら!…っぅ」
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長くなりそうなので一旦切ってしまいました・・・。
これから恐らく辰伶が大変なことになってしまうと思うので・・・裏にUPします
が!なかなか進みません(汗 エロは難しいなぁ・・・
・・・それより何より問題なのはタイトルのつけ方だよ・・・・・・・
2007/12/13