「ガイ、勝負しようぜ」
「今、メシ食ったばかりだろーが・・・」
「そんなの関係ねぇ!」
「・・・はいはい、ルークお坊ちゃま」
この頃ルークはヒマあれば勝負を挑んでくる。
朝一、寝る前、休憩中、食事前後、酷い時など真夜中に叩き起こされた。
まぁ、ルークの機嫌が悪くならないよう付き合ってはやるが・・・正直さすがにしんどい。
始めはティアとナタリアも注意してくれていたが、あまりにもルークがしつこいので、根気負けし、もう助けてはくれなくなった。
大体ルークがなんでこんなにこだわるのかよくわからん。
「先行ってるから早く来いよ!」
剣を掴みどたどたと出ていくルーク。
そのあとをミュウがぴょんぴょんとついて行った。
はぁ、まったく・・・何があったんだ?
げっそりしているとティアが覗き込んできた。
「ガイ、今日も?毎日大変ね」
「ルークもいい加減にすればいいのに〜」
「この頃ずっとああですもの、ガイ、休む暇がないのでは・・・?」
口々に俺の心配をしてくれる。
女性陣は優しいな・・・。それに比べて・・・。
「いや〜、使用人冥利に尽きるじゃないですか。毎日部屋が静かで助かってますよ」
さも、面白そうに茶化してくる。
ま、ジェイドが心配してくれてるとは微塵も思ってなかったが・・・。
どっちかというとルークの肩を持っているように思える。
「ほらほら、ルークがお待ちですよ?また機嫌が悪くなっても知りませんよ〜」
ちくしょう。俺は近くにあった水をグイッと飲み干し、後ろから聞こえたティアの「気をつけてね」の声に振り向かず片手を上げ、ルークを追った。
宿を出ると空には一面の星の光りとぽっかりと浮かぶ月。
この光と焚火があれば十分なくらい稽古ができる。
おっと、稽古と言っちゃルークが怒るから・・・勝負が出来る、かな。
さて、ルークはどこいったんだ?辺りを見回してみると、少し離れた森のほうにぽつんと火の明かりが見えた。
きっとあれだな。パチパチと音を立てて燃える焚火のとこまで来たがルークの姿もミュウの姿も見えない。
呼び出しておいて・・・あいつらどこいったんだ・・・。
耳を澄まして気配を探ると森の中から何か感じた。
ったく、一人で森の中になんか入るなよ・・・危ないな。
ルークも相当強くなったが・・・どうしても親心が出てしまう。
音を立てないようにそっと気配の元に近づく。
すると、剣が空を切る音と話し声が聞こえたので、木の幹に身を隠し少し状況を伺うことにした。
「ったく、ガイのやつ、遅いなぁ」
「どうしてご主人様この頃ガイさんと稽古ばかりですの?」
「稽古じゃない!勝負だっつーの!」
ナイスな質問を投げかけたミュウがルークに足蹴にされている。
助けてやれなくてスマンな。
やはり稽古と言うと怒った・・・わかりやすい奴め。
ルークはその場に腰を下ろし、どこかふて腐れた様子でしゃべり始めた。
「絶対・・・誰にも言うなよ?」
「はいですの!」
「・・・ガイよりも強くなりたい。今まで苦労かけた分、戦闘くらいでは楽させてやりたいんだよ・・・。あいつさ、自分でも気付いてないかもしんないけど戦闘の時必ず俺に注意しながら戦ってんだ。お荷物だよな・・・俺だってガイ・・・守りたい」
語尾に行くにつれ消え入りそうな声だが、瞳は強くしっかりとした光を放っている。
俺はその場から動くことが出来ず、ただルークが言ったことを頭の中で繰り返す。
「ガイより強くなりたい」
それは分かる。俺より強くなるには俺と戦ったほうが手っ取り早いからな。
「自分でも気付いてないかもしんないけど戦闘の時必ず俺に注意しながら戦ってる、お荷物だよな」
そう・・・言えば・・・。戦闘時はルークのことが心配でしょうがない。
けど、別に俺が好きでやってる訳で・・・ルークには責任はない。
「ガイ・・・守りたい」
・・・ルークがそう思ってるなんて・・・。
あいつのことなら誰よりも全部分かってるつもりだった。
ルークが城に来て依頼、ずっと世話して・・・親友の立場で相談も受けて・・・。
いい事も悪い事も俺が教えた。・・・だけど、いつの間にか俺の考えが追い付かなくなってた。何時までもあの頃のルークじゃないんだな。
俺を守りたい・・・必死で強くなろうとしてるのはその為だったのか。ルーク・・・。
俺はその場をそっと離れ焚火のとこまで戻ってくると大声で叫んだ。
「ルーク!どこ行ったー!?」
「あー、今行く!待ってろ!」
ミュウを片手に抱え大急ぎで走ってくるルーク。
今話していた時のような弱々しい陰は全く見えない。ずっとそうやって隠してきたのか・・・。俺が考えに更けているとルークが不思議そうに寄ってきた。
「?ガイ、どうかしたのか?」
「・・・いや・・・さてと、では始めますか?」
「おう!今日こそはぜってー勝ってやる!手加減すんなよ!?」
「はは、まぁ頑張ってみるんだな」
「ご主人様頑張るですのー!」
意気込み剣を構えるルーク。
力の限り応援するミュウを少し遠ざけ向かい合う。
月の光に照らされた剣に力がこもる。
「いくぞ!」
同時に走り出す。剣の切っ先が触れ合い激しい金属音を奏で、キィン・・・キィンと辺りに響き渡る。
うん、いつもより気合い入ってるじゃないか。やっぱお前は十分強いな。でも・・・。
ガキン・・・。
一際激しく音がしたかと思うとルークの剣が宙を舞い地面に突き刺さった。
「まだ、甘い」
「・・・っく!」
尻餅をついて俺を睨み付けているルークに剣を向ける。
すぐに剣を鞘にしまいルークを立たせようと手を延ばす。・・・ここらへんが甘やかしすぎか・・・。ルークが悔しそうに立ち上がり剣を取りに行く。
「もう一本!!」
「ああ、いいぜ。どれだけでも付き合ってやるさ」
あれから何時間もの間、戦い続けたが結局ルークは一度も俺に勝てないままでいた。
辺りはすっかり暗くなり、優しい熱を放つ焚き火の横でミュウがすやすやと寝息を立てている。
もう、そろそろ仕舞いにするか。
いまにも飛び掛ってきそうなルークに向けていた剣を鞘にしまい、凝った肩をほぐす。
「ルーク、今日はここまでだ。宿に戻るか。あまり遅いとティア達が心配するからな」
「えー!?まだいいじゃんか!俺、まだガイに勝ってねぇ」
「また明日な」
ぶーと頬を膨らませ機嫌を損ねるルーク。
ホント子どもっぽいな・・・まぁ、そこが可愛いんだよな〜。
ルークがその場にドッと腰を下ろし、思いっきり背伸びをする。
「お前さ、なんか手加減してねぇ?なんか違うんだよな〜」
「ばぁか、お前相手に手加減なんかできるかよ」
「・・・む〜。なんか、納得いかね〜」
ルークの隣に腰を下ろし、頭にぽんと手を乗せる。
なにが、そんな不満なんだ?
子ども扱いすんな、と不機嫌そうに手を払いのけルークが俺と向き合う。
「なぁ、なんでガイはそんなに強いんだ?」
「はぁ?なんだ、突然」
「いいから!訳聞けば、俺だって強くなれる」
全く子どもの発想だな。
大体、強くなる理由なんて人それぞれだろ?
目を輝かせて俺の言葉を待つルーク。
第一俺が強くなろうとした理由は・・・お前の父親に復習するため・・・なんて言ったらどうなることやら。
・・・けど、それはもう昔のことだ。
今、俺が強くなろうとする理由は・・・
「お前より強くなければ、お前のこと守れないだろ?」
ルークの目が大きく見開き、呆けている。
にこにこと最高の笑みを浮かべる俺にはっとしたのかルークが正気に戻り、顔を真っ赤にしてまくし立てる。
「お、俺だってガイのこと守りたい!」
「なら、頑張って俺より強くなってみろよ」
ひらひらと手を泳がせからかうような素振りの俺に腹を立てたのか、ルークが俺の服を掴んでグイッと引っ張る。
ルークの顔が近い・・・。
それでも真っ直ぐに俺の目を見てくるから・・・なんだか、こっちが照れるぞ・・・。
「くっそ〜!今にみてろ!ぜってーギャフンと言わせてやる!!」
「はいはい、楽しみに待ってるさ」
顔が近いのをいいことにちゅっと触れるだけの軽いキスを落とす。
ルークの顔が今まで以上に赤く染まっていくのが面白い。
服の手をばっと離し、口を隠すように当てた。
「いきなりするなー!だぁーもー!むかつくー!」
「はははっ」
でもな、お前にだけは負けないさ。
俺だって本気だからな。
一人で復讐を誓った昔の俺には何もなく、誰よりも強いと思っていた。
だけど、守りたい人ができた今は昔の俺より遥か強くなった。
そんな俺を無駄にしたくない。
お前が強くなるなら、俺はその倍強くなって見せるさ。
いつまでも俺より弱いルークでいてくれ。
いつまでも俺に守らせてくれ。
それだけが俺の今の俺の全てだから。