嫌いになんてなれない
自分が一番強いって思ってた。
だから、紅の王に挑んだ。
結果は、惨敗。
オレってまだまだなんだ。
負けたとたん何もかもがどうでもよくなって、あぁ、ここでオレ死んじゃうんだって覚悟したのに、返ってきた言葉は「外に行って、鬼目の狂の監視をして来い」だって。
まぁ、オレより強い奴が言うんだし・・・鬼目の狂って人も興味がわいたし・・・なにより、あいつと離れられるんだったらいいかもって思った。
「螢惑!!貴様、紅の王に刃向かったというのは本当か!?なんということを・・・それでも五曜星か?!」
オレの姿を見つけると怒鳴りながらこっちに向かってくる、一番大嫌いなやつ。
うるさいな。何したってオレの勝手でしょ?
なんで一々口出ししてくるの?ほんとウザい。
「それで、紅の王はなんと?お前の処遇は?」
「・・・外に行って、鬼目の狂の監視だって」
「・・・・・・それだけですんでよかったではないか。死罪だってありうるのに・・・やはりこの壬生一族を束ねる紅の王は寛大な御方だな。お前も 王を見習え!大体紅の王に刃向かうなど愚かすぎる―――・・・・・・・・・」
口を開けば説教と壬生壬生壬生・・・・・・。
もう、うんざり。
あと三日すればオレは外に行けるんだ。
そしたら、もうお前と一生さよなら。
もうこんなとこ帰ってくるつもりないし。
お前といるとイライラばっかり・・・きっとオレ、外に行ったらもっとのびのびできるんだろうな。
三日後と言わず、今出て行きたいくらいだよ。
「おい!聞いているのか!?」
「あ〜・・・うんうん。わかったわかった。今度は負けない」
「ちっともわかってないではないか!!」
いつもだったら死合いにもつれこむんだけど、今日は機嫌いいからやめといてあげる。
なんたって、お前と離れられるんだから。
〜出発まで残り三日〜
辰伶は相変わらず、うざい。
「外に行く前に、今の日本の情勢と鬼目の狂という人物像をお前に叩き込んでやる」って張りきっていろんな本持ってきて広げてる。
オレ、そんなのいらないし。ってゆーか、覚えられない。
余計なことしなくていいのに。オレにかまう暇あったら大好きな任務でもすればいいじゃん。
「徳川なんとか康」とか、「いたち正宗」とか・・・オレには関係ないし。
うつらうつらしてると、水かけられて・・・そのまま死合いにもつれ込んだ。
こっちのほうが、よっぽど楽しい。
結局、勉強とか死合いとかで一日中辰伶といちゃった。
うざい。
〜出発まで残り二日〜
今日は、五曜星のみんながお別れパーティー開いてくれた。
別に楽しくはないけど、出ろ出ろってうるさいから主役席に座ってる。
歳子と歳世は騒がしく歌ってるし、鎭明はそれに拍手送って楽しそう。太白は・・・あぁ、少し離れた・・・ってか、部屋の隅っこに座ってる辰伶と呑みあってる。
今日はオレ主役なんでしょ?隅にいないでお祝い(?)してよ。
・・・それに辰伶、今日はあんまりつっかかってこなかったな。
廊下ですれ違ったとき、「用意は怠りないようにしておけ」と「今日の夜、お前の送別の宴を開くことになったから、絶対参加しろ」くらいしか話してないような気がする。
静かで、うざくなくていいんだけどさ・・・何かイライラする。
ん?何言ってんの、オレ?これじゃ、辰伶にかまってほしがってるみたいじゃん。
違う違う。辰伶なんてどうでもいーし。
〜出発まで残り一日〜
昼過ぎまで寝てて、だらだら用意したり、昼寝してたらいつの間にか夜になってた。
部屋から出なかったせいもあって、今日は辰伶のこと見てない。
部屋の前を通る気配はあったけど、あいつがわざわざ入ってくることなんて無いし、オレも出て行くことなんてない。
けど、そのせいで何か辰伶の気配に敏感になったかも。ヤダヤダ。
明日、朝早く出ていなきゃいけないみたいだし、もう寝ようかなって思ってたら障子の向こうに辰伶の気配を感じた。
とたん何も考えずに飛び起きてた。
・・・明日から会えなくなるのが嫌なんじゃないよ・・・うん、最後にどっちが強いか決着つけたかったからだよ。
障子を外れるかと思うくらい勢いよく開けると同時に辰伶の右手が額を叩いた。
あ、ノックしようとしてたとこ?障子にノックしてもあまり意味ないよ。
それに、身長差を感じて・・・むかつく。
「痛い。なにするの」
「あ・・・お前がいきなり開けるからだろう」
「オレの部屋なんだから、いつ開けたっていいでしょ。・・・なんか用?」
「・・・お前が明日出て行く前に、これを渡しておきたくてな」
辰伶から受け取ったのは「良い子の勉強!にほんの地理と歴史」って本。
お前、絶対オレのこと馬鹿だって思ってるでしょ。
本を後ろに放り投げ、辰伶との距離を一歩縮める。
辰伶の澄んだ匂いが鼻を掠める。
「あ!!キサマ、折角オレが用意してやったものを!!」
「・・・そんなことよりさ、死合おうよ・・・辰伶」
月光と松明に照らされた庭に出て、向かい合ってお互いを睨み付ける。
戦うの好きだけど、やっぱ辰伶と死合うの一番好きかも。
他の奴とは違う緊張感、緊迫感、高揚感・・・すごく楽しい。
踊るように動くだび、風に舞う綺麗な銀の髪。
刃を交えるたび、オレの目をまっすぐ見てくる金色の瞳。
男にしては少し高めの声、袖のない服から伸びるすらりとした腕・・・たまに、チラッと見える脇。
・・・・・・・・・あ、そっか。オレ、辰伶と死合うのが好きだと思ってた、でも、それって、辰伶が好きってことだったんだ。
辰伶に向けていた刀を降ろして、地面に突き立てた。
そのまま、オレの行動を不思議そうに眺めている辰伶まで歩み寄って、力いっぱい抱きしめた。
「!!???」
辰伶の舞曲水で造った刀がざばって水になって消えた。
動揺しすぎじゃない?
辰伶の身体・・・オレよりでっかいし、筋肉もついてて、抱き心地いいとは言えないけど・・・落ち着く。
ドキドキしてる辰伶の胸に頬こすり付けても、何の反応もない。
ってゆうか、状況把握できなくて反応できないってカンジ?
チャンスだと思って、片手は背中に置いたまま、もう片手は袖の方から中に滑り込ませて直接肌に触れてやった。
・・・手、動かしにくい。
こんなきっちりした服じゃなくて、前で掛け合わせてあるやつだったら、楽だったのに。
わさわさ中探ってたら辰伶が、ピクッて反応した。
それで・・・
「っ!!!バカ者がぁ!!!!」
殴られた。
オレを突き飛ばして、顔まっかにして涙目でにらみつけて来る。
いきなり突き飛ばすからバランス崩しちゃって尻餅ついちゃった。
「このようなことをして・・・何のつもりだ!?はっ、陽動作戦か!?そんな手には乗るか」
「乗ってるじゃん。思いっきり」
下から辰伶を見上げてからかい混じりで言った。
それが気に食わなかったのか、辰伶の眉がぴくりと震える。
「お前のような奴に抱きつかれて、動揺などするものか!」
「してた」
「してない!」
「絶対してた」
「ぜぇっったいしてない!!」
断固として言い張る辰伶。
やっぱウザいかも。でも、なんかかわいく見える。
好きな人のすることだったら何でもかわいく見えるってやつ?
立ち上がって辰伶の胸に手を当てた。
すごい速さでドキドキしてるよ?
「ほら、やっぱりしてる」
「―――!?」
「固まっちゃって・・・かわいー」
「かっ!かわいいだと!?キサマ一体どうゆうつもりだ!?オレをからかってるのか!!?」
「違うよ。・・・明日から逢えないって思ったら気がついたの」
「・・・?何がだ?」
「辰伶が好きって」
辰伶の胸に置いた手に一際大きな鼓動が伝わってきた。
心の臓はこんなにドキドキしてるのに、辰伶は呆然とオレを見てる。
口が半開きで、艶かしい舌がちらりと見えてる・・・口付けしたら怒るかな?
けど、どうせ最後なんだしいいよね?
辰伶との距離を縮めようとしたとき、いきなり辰伶が視界から消えた。
・・・全身の力が抜けちゃったのか、地面にへたり込んじゃった。
「・・・じ、冗談も大概にしろ・・・」
「オレ冗談なんて言わないよ」
「・・・・・・・・・オレはお前のこと、そういう風には・・・」
「うん、いきなりだからね。たぶん、辰伶もオレと離れたら気づくと思うよ」
「・・・そんな馬鹿な」
「そのために、しておくね」
「?」
辰伶の横にしゃがみこんでオレの方に顔向かせると唇にちゅっと口付けた。
辰伶の顔が一瞬で真っ赤になったのが薄暗い中でも分かる。
手で口を覆うように隠し、目をぱちぱちさせてる。
・・・かわいいからもう一回しとこ。
口元の手をどけて、さっきよりも深い口付けをした。
「・・・んむっ・・・んー!」
辰伶がオレの背中ばしばし叩いてる。
初めてだから、これくらいにしといてやろうかな。
唇を離すと同時に水龍に襲われて、そいつらを片付けた一瞬の間に辰伶の姿はなくなってた。
さすがに、早いね。夜の闇を利用すれば姿なんて簡単に消せるか・・・。
オレは縁側に腰掛けて月を見上げた。
これでオレのこと考えずにはいられなくなったでしょ?
オレで頭の中いっぱいになるでしょ?
辰伶の性格なら尚更深く考えてくれるよね。
それで、そのうち、気がつくよ。
お前もオレのことが好きなんだって。
嫌いになんてなれないんだって。
あ〜あ、やっぱ、外に行くの嫌になっちゃった。