誰もいなかったお前の世界に大切な人が増えていく事は、とてもいいことだと思う。
だけど…何時までたっても一番はオレだよな?





「よし、今日の授業はここまで」
「「ありがとうございましたー」」

生徒達の後ろ姿を見送りふぅっと一息つく。
さっきまであんなに賑やかだったのに、誰もいなくなった教室は嘘のように静かだ。
オレはゆっくり歩を進めて一つの机に手をかけた。
ナルトは今頃任務を頑張ってる頃だろう。
ちゃんと出来てるか?考え無しの行動は控えてるだろうな?
…アカデミーにいた頃は週3、4回のペースで一楽へ行っていたのに、卒業してからはまだ一度も行ってない。
任務の受け渡しで何回かは顔を合わせているが、時間に余裕があるわけでもなくゆっくり話すことすらできてない。
見た限り元気でやっているし…新しい仲間とも上手くいっているようだ。
友達いっぱいできたんだろ?楽しそうでよかったな。

―でも、そうしてお前はオレから離れていくのか?―

っ!オレは何を…考えてるんだ。
ナルトはやっと一人ぼっちの世界から抜け出して、新しい生活を…当たり前の生活を送ることが出来るようになったってゆうのに。
何故それを喜ぶことが出来ない?それを1番祈っていたのはこのオレだろ!?
ナルトは、抗う事の出来ない運命に必死に堪え、自分で孤独を壊し、仲間と呼べる人を見つけていった。
本当は強くて、頑張り屋で優しい、いい子…そのことに1番に気がついたのがオレであっただけで…今はもう皆知っている。
何故かツキツキと痛む頭を押さえながら夕焼けで染まり始めた空を眺め、久しぶりに一楽誘ってみるかと一人ごちた。
この時間なら任務も終わってまだ、斡旋所か里をふらついているかもしれない。
早速オレは教科書等をまとめて足早に斡旋所へ向かった。
斡旋所には任務を終えたばかりの班がごった返し、報告するための列を作っている。
辺りを見回してもナルトや7班の姿はなく、仕方なく廊下に出た。
長い木造の廊下をずかずかと歩いていると外から捜している声が聞こえてき、思わずここが2階だって事も忘れて飛び出しそうになった。
見下ろすとナルトがカカシさんの背中に勢いよく体当たりして、そのままぶら下がっている。ったく、そんなにはしゃいで…いつか怪我するぞ。

「カカシ先生ー!ラーメン奢ってってばー」
「やーだよ。先生給料日前なの」

……っ。
ねーねーとねだるナルト。それを聞こえないフリをして本を読み続けるカカシさん。でも、足はしっかりと一楽の方向へ向かっている。
カカシさんが歩く度、振り落とされないようにと必死にへばり付くナルトの姿を、指先が白くなるほど手摺りを握りながら見ていた。

―オレは誘ってくれないのにカカシさんは誘うんだな―
―オレといるよりカカシさんといたほうが楽しいのか?―
―お前は側にいてくれるのならば、誰でもいいのか?ナルト…―

心の中でナルトを強く呼んだ。その瞬間ナルトがピクリと反応して、オレのほうを見た。ばちっと目が合うとナルトの顔がぱあっと笑みで溢れる。

「あ!イルカ先生発見ー!お〜い!」

ぶんぶんと大きく手を振るナルトを見てみぬフリをして窓から離れた。
何故そうしたのか自分でもわからない。
ただ、ナルトを見ていたくなかった…ナルトは、無視した!と怒ってるかもしれないな。
オレは泣きそうな顔を誰にも見られないように斡旋所を後にした。
家に帰っても何もする気になれず、取りあえずシャワーだけ浴びてベッドに横たわった。
それでも頭に浮かぶのはナルトのことばかり。
何故、九尾憑きのナルトに手を延ばしたのかなんてもう忘れた。
里中から忌み嫌われ、疎まれ…オレも始めはナルトを憎んでいたはず。
オレの両親を奪い、孤独を与えた子。
それなのに、何時からだろう…ナルトがオレの中で最も大切な子になったのは。
ナルトが笑う度、嬉しくなり、落ち込む度、悲しくなる。
頭を撫でれば愛しさが溢れ、一緒に一楽へ行けば本当の家族の様に落ち着く。
ずっと続けばいいと思っていた…そうすればオレがナルトの1番でいられるのに。
それなのに、お前は自らで歩き始めた。
世界がナルトを受け入れ始めた。
オレ一人を置いて…。
いっそ、ナルトに嫌われれば楽なのかもな…。天井の一点を見つめ、最低な事だとわかっていても考えていると、外からナルトの気配がした。
さっき、あんな態度を取られ入りずらいのだろう、玄関の前で立ち尽くしている。
ばかだな、気配消さないとバレバレだってのに。
きっとオレがこのまま何もしなければナルトは入って来ないだろうな…。
…………。

「何やってんだ?ナルト」
「わ!い、イルカせんせっ!何でっ!?」
「お前の気配の消し方全くなってない。それにオレは中忍だぞ」

む〜っ、と膨れるナルトを家に招きオレンジジュースを手渡す。
喉が渇いていたのか一気に飲み干し、ニシシと笑ってお代わりまで請求してきた。…ったく、まあ、可愛いと思ってしまうオレもオレだけど…。
しかし、何でナルトがここにいるんだ?今頃カカシさんとラーメン食べてる頃だと思っていたが…。
お代わりのジュースを継ぎ足していると、背中越しに躊躇いがちのナルトの声がした。

「……ね〜、イルカ先生…今日さ、任務報告所にいた?」
「…いや、今日はずっとアカデミーにいたぞ」
「……ふ〜ん…」

ナルトは伏し目がちにジュースを受け取り、口へ運ぶ。
足をブラブラと揺らし、ジュースをちょっとずつ飲むだけで、それ以上の言葉は発しなかった。
本当はもっと聞き出したいことがいっぱいあると思うが…ナルトは何か聞きたいことがあればあるほど人と目を合わせなくなるからな。
答えにくい事だし…無理には聞かないことにしよう。
しんとした部屋には時計の秒針の音しか聞こえず何故かオレは気まずい気持ちでいっぱいだった。
ナルトを避けて、嘘までついて…一体オレは何をしたいんだ?自己嫌悪にはぁ〜…っとため息をついたのと、ナルトの腹が鳴ったのはほぼ同時だった。

「…」
「……腹、減ったってば」

気の抜けた音にオレの気も緩んだのか、ぽつりと零したナルトの独り言についつい疑問だった言葉を返してしまった。

「え…カカシさんとラーメン食べに行ったんじゃなかったのか?」
「!!やっぱあれイルカ先生だったってば!何で…嘘つくんだよっ」

しまった…。
ダンッとコップをテーブルにたたき付け、椅子が倒れるのも気にしないでナルトが立ち上がった。
キッと睨み付ける目は、怒りと悲しみとで少し潤んでいる。
ズキンと胸のあたりを刺されたような痛みが走り、真っすぐナルトの目を見る事ができない。
悪いのは全部自分だ…オレも立ち上がりナルトに向かって頭を下げた。

「悪かった…ごめんな」
「……っ、嫌われて……無視、されることには、慣れてる…。でも、嘘つかれるのは嫌だってば…」
「!?ナルト、オレはお前の事…」
「もぅ、いいんだってば!イルカ先生優しいから、オレみたいな奴でも構ってくれて…だから、嫌な思いいっぱいしたと思う…」

そんなことない…とは言えなかった。
裏切り者、偽善者と罵られたり、変わり者と後指指されたり。
確かに、ナルトと一緒にいるようになってからは、オレから離れていく人は少なくなかった。
…正直辛かったさ。放っておこうとも考えた事もあった。
でも、ナルトを取り巻く大人の冷たい目、卑劣な態度を改めて実感して…それでも前を向いて歩いていく姿を見て、ああ、何て強い子なんだろう。
支えになってやりたい、守ってやりたい…この子が何時までも笑っていられるように…そして、なによりオレ自身ナルトから離れたくなかったんだ。
瞳に涙を一杯溜めたナルトが無理に笑う。

「…オレは…もう大丈夫。なるべくイルカ先生に近寄らないようにするから…大丈夫」

語尾にいくにつれ声は震え、笑みが歪んでいく。
しばらく俯き、唇を噛み締めて精一杯泣く事を我慢していたナルトが顔を上げ、オレを見ると、一瞬驚きの表情を浮かべた。

「ひと…りでもっ…だっ、大丈夫だから………だからっ!何でイルカ先生が泣くんだよっ!?」
「…ナルトが…オレから、離れていくって…」

情けないな…ナルト以上にボロボロと涙を流して立ち尽くすオレ。
それを見たナルトの涙腺も限界を越えたのか、せき止められていた涙が一気に溢れ出した。
大声を張り上げ、あっとゆうまに涙と鼻水でぐちゃぐちゃになったナルトの頭を撫でて宥めながら、優しく涙を拭き取った。
ところが何故か余計に酷くなり、ぐしぐしと鼻を啜るナルトがオレの手を拒む様に首を振って後ずさる。

「ぅえ〜…ック、ヒック!な、で…?…イルカ先生無視、したじゃん、嘘…ついたじゃん…!…レの事…キライになったんだろ!?優しくなんかっ…するな…っ、てばぁー!」

愕然とした。自分の我が儘でとった行動がここまでナルトを傷付けてたなんて。
あれだけ大事にするって決めてたのに…ずっと見守るって誓ったのに。
ナルトをこんなに泣かせて…治まりかけていた涙がまた溢れ出し、目の前でうわーんと号泣する小さな存在を思いっきり抱きしめた。
腕の中にすっぽりと納まったナルトがどうにか逃げ出そうと激しく暴れたが、オレは力を緩めることはなかった。

「…めん、ごめんな、ナルト。ごめん…っ」

ただただ泣きながら謝ることしか出来なかった。
ナルトも次第に大人しくなり、最後にはオレの服に顔をうずくめ、一緒に泣いた。

「ナルト…嫌いじゃないから…大切だから、大好きだから」

虫の鳴くような声で呟いたから大声で泣くナルトに聞こえてないかもしれない。
でも、オレの服を握る手の力はさっきよりも確実に強くなっていた。






「オレ、イルカ先生に嫌われたって思ったら…すっげー悲しかったってば」

目の周りを微かに赤く腫れさせ、少し掠れた声のナルトがぽつりと呟いた。
あれから力尽きるまで思いっきり泣いたオレ達は今、ベットに二人並んで座っている。
俯くナルトの手はしっかりとオレの服の裾を掴んでいて、全く離そうとはしない。
いつも全身で感情を表してくるナルトとしては少し控えめだな。
一度植え付けられた悲しみはすぐ消える事はない…一度だけの好きでは、まだ不安なんだろうか?
ナルトの頭を優しく撫で、笑いかけた。

「オレはな、今までも、これからも…ナルトが1番好きだぞ」
「…っ。ホント?…もう、嘘つかない?」
「ああ」
「……オレも大好きだってば!」

ナルトが勢いよくオレの胸に飛び込んで来た。
やっといつものナルトらしくなってきた。ナルトが好き。
この言葉でナルトが喜んでくれるなら、この言葉でナルトの中で1番でいられるなら何回でも言う。
お前が望まなくなる日まで言い続けよう。

「さて、と…腹減ったな?ラーメンでも食いに行くか?」
「行くっ!カカシ先生や、皆と食べるラーメンも美味しいんだけど…やっぱイルカ先生と食べるラーメンが1番美味しいってば!」
「…今日はお代わり自由だからな」
「まじ!?イルカ先生大好きーー!!」

それくらいしかお前を繋ぎ止める術がないから…。












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二人の「好き」は家族愛ってことで・・・
親離れ子離れができてない仲良し家族。でも萌