いろいろなほた辰を書いてみよー!
ほたる×辰伶現代パラレル
編集者ほたる 小説家辰伶 Ver.
唐突に思いついた事を書いています。
続くかどうかは気分次第です。
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出来た…。今までで最高の出来栄えだ!早く編集しなくては。
自ら言うのも厚かましいが、オレはこう見えても結構名の知れた小説作家だ。
出した本の数は少ないが、いずれもランキングでは上位を得ている。
主な作品は政治世論や歴史関連。
仲間内からは内容が堅すぎると言われることが多いが…これがオレだから変えるつもりは全くない。
大きく背伸びをし凝った肩をほぐして、原稿用紙をきちんと揃えて袋に入れた。後は取りに来てもらうだけ。
今はパソコンのメールで入稿が出来るという画期的なものもあるらしいが…オレはどうもパソコンが苦手らしく、原稿用紙と万年筆を愛用している。
時計を見ると午後3時。今から連絡すれば5時前には編集社に届くな。
机の傍らにある電話に手を延ばし、ダイヤルを押す。数回のコールの後、よく聞き慣れた声が電話にでた。
「はい、壬生出版です」
「歳世か、世話になっている。辰伶だが…原稿が仕上がったので取りに来て貰いたいのだが…」
「し、辰伶、久しぶりだなっ…。今、担当の者と代わるなっ」
「ああ、頼む」
「(…嬉)」
耳によい保留音が流れる。
原稿用紙が入った茶色い封筒を撫でながら、本の完成図を予想すると顔がニヤけてしまう。
俺達にとって書き上げた作品は我が子の様に愛しいもの。ましては、今回のは最高傑作…。早く完成品が見てみたいものだ!
「お待たせしました。編集部、アキラです」
「世話になっている、辰伶だ。原稿を取りに来てもらいたいのだが」
「ああ、今回も余裕の入稿ですね…。残念ですが、私は他の人の〆切りが過ぎているのでそこに向かわなければなりません。ですので、別の者を行かせます」
「それでもオレの担当者か?期日くらい守らせんか」
「(ムッ)…私に会えないのが寂しいからってひがまないでください」
「誰がひがむか!…それで、その者は何時位に来れそうなのだ?」
「そうですね…30分後には出れそうですから…四時半位には…」
「わかった。では頼んだぞ」
電話を戻し、ふぅ、と一息つく。
アキラが言っていた者が来るまでまだ1時間ちょっとある。
さて、何をしようか。
辺りを見回して驚いた…原稿を書いているときは集中していて気がつかなかったが…この部屋なかなか汚れているな。
洗濯物は隅に山盛りに積まれ、部屋一帯にくしゃくしゃに丸められた原稿用紙が散乱している。
悪い癖だ、食事も掃除も外に出る事も、睡眠さえも疎かにしてしまう。
よくこんな部屋で生活ができたものだ。
…こんな部屋に人を上げるわけにはいかないな。掃除でもするか。
山盛りの洗濯物は色物を分けて洗濯機に放り込み、ゴミ袋片手に原稿用紙を拾い始める。
机の上の辞書やペン類もきちんとしまって、消しゴムのカスを払い、次の原稿にすぐ取り掛かれる様に用紙をセットしておく。
掃除機もかけおわり、あらかた綺麗になったところで洗濯機が終わりの合図を知らせる音が聞こえてきた。
洗い終えた物を持ってベランダに出ると、日も傾いているにも関わらず秋にしては温かい光が射している。
この分だと夜までに渇いてくれそうか…?夜干しはしたくはないから…残りは明日にしてしまおう。
シワを延ばしながら最後の一枚を干して……よし、これで掃除は完了だ!
時計を見ると4時15分、調度いい時間だ。今から茶の用意をすればぴったりだな。
オレはキッチンへ向かった。
もてなしの準備は出来た、さぁ何時でも来るがいい。
ソファに座り、どのような人物が来るのか想像してみた。
あのアキラが送った奴だ…物凄く嫌味な奴だったらどうしよう。いや、逆にもの凄くいい人かもしれない。
まず、挨拶をして、自己紹介を・・・・・・はじめまして?こんにちは?よく来たな?・・・初対面で馴れ馴れしすぎるな。
世間話から行くか・・・今日はいい天気だな・・・?
・・・・・・。
・・・・・・・・・・・。
・・・・・・・・・・・・・・・・。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・くぅ。
座り心地の良いソファと調度いい気温の中、疲れた思考をフル回転させたせいでオレの意識は眠りの中へと吸い込まれていった。
「・・・ん・・・・・・はっ!しまった!寝てしまった・・・」
時計を見ると七時半過ぎ・・・もう来てしまっただろうな。
オレとしたことが、悪い事をした・・・謝りの電話を入れなくては!
会社はもう終わってしまっている可能性があるので、アキラの携帯にかけることにした。
「はい」「辰伶だ…その、代わりの者のことだが……」
「あぁ、申し訳ありません。まだついてないですか?」
「え?いや、その…」
「ほたるのやつ…わからないなら一旦帰ってくればいいものを…」
「…会社に戻ってはいないのか?」
「はい。申し訳ありませんが、ほたるが来たら伝えてください。会社はもう閉まるので原稿は明日持って来てください、と」
「…ああ、わかった」
アキラとの会話を終えたオレの頭は疑問でいっぱいだった。
会社には戻ってない?
アキラのあの口ぶり…やけに慣れていたように感じた。
もしかして、まだ来てなかったのか?
では、一体何処へ行ったというのだ?
まさか…迷っているとか?いや、ここは駅から二つほど曲がるだけでそれほど難しい場所ではない。
…うぅむ…こういうときはどうすればいいのだ。探しに行くにしても顔がわからんし……待つか。
いつ来るかわからんし、風呂は入れない。
腹もそれほど空いてない…暇だな。
オレはあたたかい紅茶を片手にリビングのソファに座り、手近に在った雑誌を拾い上げた。
あれから何度玄関とソファを行き来したかわからない。
時刻は9時過ぎ…。
最初は疑問に思っていた頭も今では怒りで一杯で、早く来て怒鳴り付けてやりたいとさえ思っていた。
当たり前だろう?人をこんなに待たせておいて!あと30分待っても来なかったら風呂に入って寝てやる。
そう意気込んで、ソファが軋むほど乱暴に腰掛けたとき、今日初めての玄関のベルがなった。
はっとして立ち上がり急いで玄関に向かい扉の鍵を外す。
「はい」
「ごめん。遅れちゃった」
「…んん?」
そこに立っていたのはオレと同じ位の歳で、スーツのボタンは開けっ放し、シャツはだらし無く出ているはネクタイはしてないは、髪は金髪でフワフワしてるは…揚句、鞄さえ持っていない男の姿。
持っているのは小さな紙袋一つ。
こいつがアキラの言っていた代わりの者?
あまりにも…想像と掛け離れていて…いや、それよりも、こいつ本当に社会人か?仕事を嘗めてるのではないかと思ってしまう態度と恰好。
普通、人との約束は絶対守らなくてはならないもの。もしも遅れる場合は連絡を入れるのがマナーだし、もっと丁寧に詫びをいれるものだろう!?
それが、ごめんの一言で済まされ、しかもその詫びからは全く誠意が感じられん。
「…何故こんなに遅くなったのか…訳を言え」
「初めて乗る線だったから地下鉄反対方向に乗っちゃって、それで天気よくて暖かかったからつい寝ちゃた」
「…ねっ、寝ただぁ!?」
信じられん!地下鉄の件は慣れてないのなら許してやるが…寝てしまうなど言語道断!
拳を握り、溜まりに溜まった怒りが爆発すると言ったときに目の前に白い紙が差し出された。
…これは、名刺?
「オレ、ほたる。よろしく」
「……辰伶だ」
「知ってるよ。あんたの本持ってるし」
その一言で我に返った。
どう見ても読書が好きな風には見えないが…いや、人を見かけで判断するのはよくない。
持っていると言うのは本当みたいだし…案外イイヤツ?
自分の書いた本を持っていると言われただけで今までの不快な気分も吹っ飛んでしまうとは…オレも現金なやつだな。
「お前…読書が好きなのか?」
「あー、うん。お前の本好き…ってゆーかお前が…」
「そうか!!読んでくれてありがとう!寒かったでしょう?さぁ、入ってください」
「……うん」
この男が何かを言いかけたが、オレ本を好いていてくれたことの嬉しさについ、話を遮ってしまった。
まぁ、大切な話ならまた言うだろう。
ほたるさんを部屋に招き温かい紅茶を差し出した。
ほぅ、と温かさに包まれたほたるさんが一息ついた。
どうやら相当寒かったらしい。玄関でではなく、早く中に入れてやればよかった。
少し後悔しているといきなり名前を呼ばれた。
「辰伶はいつもここで書いてるの?」
いきなり呼び捨てか。
「ああ。ここが1番温かいのです…そういえばほたるさんにアキラから言伝がありました。」
「ほたるでいいよ。どうせ歳、変わらないと思うし…敬語もむずむずするからヤメテ」
「…わかった。アキラから、もう会社は閉まってしまったので原稿は明日持ってこい…だそうだ」
「またか…わかった」
…ん?また?やはりこいつ遅刻の常習犯か。
こんなやつが担当になったら苦労するだろうな…その点では時間をしっかり守るアキラのほうがマシなのか…?
あのイヤミさを除けば。
「あ、はい」
ほたるが先ほどの紙袋を差し出して来た。
…なんだ?
警戒しながら受け取って中を確かめると、甘い匂いと共に真っ赤な苺が沢山乗ったフルーツタルトが姿を表した。
美味しそうだ…甘いものは大好きだが、こういったものを自分で買うには少し抵抗があって、誰かから貰った時しか食べることができない。
だが、何故??
不可解なプレゼントに顔をあげるとほたると目があった。
「迷ってたら見つけたから」
優しく微笑まれ、心臓がドキンと跳ねた。
最初見たときも思ったが…こいつは相当容姿が整っている。
どのパーツも完璧で…カッコイイ男と言うのはこーゆーやつの事を言うのだな。
羨ましい…童顔やら眼が大きいやら言われ続けているオレには羨ましい限りだっ!
…しかし、何故ケーキは一つしかないのだ?これは一体どっちのタルトなのだ?
「何故、一つなんだ…?」
「ん?オレ甘いの嫌いだから。辰伶の為に買ってきたの。好きでしょ?」
コーヒーはブラックか……かっこいい!そして、やはりイイヤツ!
ウキウキでタルトを取り出して、二人分のお代わりの紅茶を持ってくる。
その間ずっとほたるに見られているような気がするが…気のせいだろう。
タルトを目の前にして嬉しさが込み上げてくる。
「ありがとう!有り難く頂くな!」
「どーぞ」
ぱく……美味い!
真っ赤な苺は熟していて甘いし、生クリームもあっさりとして苺のうま味を最大限に引き出している。
サクサクタルト地とのバランスも絶妙だし…こんな美味いタルトを食べたのは初めてだ!
「おいしい?」
「ああ、物凄く!何処で買ったのだ?」
これなら我慢してでも買いに行く価値はある!
「……忘れた」
…え!?そんな、折角こんなおいしいケーキ屋に行けると思ったのに。残念だ…。
無意識にため息が出て、もろに残念さを態度表してしまった。
箱を見ても聞いた事ない店名だし、見つけ出す事は難しいだろう。
今、このタルトを思いっきり味わっておくか…。
急にテンションの下がったオレを見てほたるは表情こそは変えないが、面白そうな声で喋りだした。
「地下鉄から降りて買ったんだし、ここらへんの近くだと思うよ。今度、一緒に探してあげる」
「ほたる…」
この世もまだまだ捨てたものではないな…こんな優しいやつがいるとは。
…アキラに礼でも言っとくか。
ん、アキラ、アキラ……は!そういえばまだ原稿を渡してなかった…こいつも帰るに帰れなかっただろう。
最後の一口を味わい、席を立って引き出しから茶色の封筒を取り出した。
「これが原稿だ。悪かったな、引き止めてしまって」
「別に…そんなこと思ってないし」
ん?なんか機嫌悪くなったか?
鞄を持ってないほたるの為に身近にあった紙袋に入れて渡す。
手渡した瞬間、耳を疑う言葉が聞こえた。
「あ、ここから会社行ったほうが近いし、今日泊めてね」
「はぁ!?」
「朝一で入稿したいんでしょ?オレ、定時に会社入った事ないし…」
「しかし…」
「何時も昼くらいまで寝ちゃうからさ」
「なに!?」
こいつに大事な原稿を預けて大丈夫だろうか…。
はっ、まさかタルトも計算の内か!?全部食べてしまったぞ…。代金を支払って帰ってもらおう。
会社が近いといっても10分そこらだろう。
「…悪いが、見知らぬ人を泊める訳には…」
「むぅ……オレ自分家から会社まで3時間はかかるんだ…入稿夕方でもいい?」
3時間!?一体何処から通っているんだ!?こっちは少しでも早く完成品が見たいというのに…。
「辰伶、お風呂借りるね」
「おいっ…こら!ま…」
ぱたん…。
10分経過・・・
は!しばしの間、呆然と立ち尽くしてしまった。
あいつ・・・本当に泊まるつもりなのか・・・?
風呂・・・オレだってまだ入ってないとゆうのに!
くっ…仕方ない!美味いタルトもあるし…今日は特別だ!明日6時に叩き起こして、きっちり定時に会社につかせる!
「しんれー!バスタオルー」
もう上がったのか!?
「今出すっ!」
はぁ…
2007/11/22