I fell in love with you at first sight.
『一目合ったときから好きでした』
つまらない。つまらない。
ここは町で1番大きい遊郭。オレはここで遊女(男?)してるんだ。
いい着物着て化粧して、女に負けない程艶をもつオレを指名してくる客は毎日いっぱい来る。
でも、オレは誰とも枕を共にしない。
普通だったらクビになるけど、オレにはそれが許される。
だって、オレ目当てに来た客は、オレが断ると他の女を買う。それでここは盛立っている状態だから。
「オレを落とせば名誉あること」だと、断り続けても絶えることない客は、通い続ければオレがいつかは寝てくれるって思ってるんだって。馬鹿だよね。
ホントはこんなとこ出ていきたいんだけど、ご飯美味しいし待遇もいいからつい出そびれちゃう。
きっとオレ出てったらココ潰れるよ。それを心配した店主が頑張ってるんだろうね。
「螢惑…客だ」
ぼんやりとしているとふすまの向こうから店主の声が聞こえた。
面倒だけど…しょーがないなぁ。
通された部屋には一人の身なりのいい男。前には赤い風呂敷に包まれた…たぶん大量のお金が置かれてる。
でも失格。
お金でオレをモノにしようとするやつなんて大嫌い。
がっかりしてる男を残してオレは部屋を出た。すれ違いに店主と一人の遊女が入ってくいつものパターン。
階段を上がって自室の窓辺に座った。
「…いい加減、飽きてきた」
ぽつり呟いて2階から華やかな遊郭街を眺めていると変わった男二人が目に入った。
一人は紅くて長い鉢巻きで目隠ししてる…よく前わかるよね。
もう一人は綺麗な銀色の長い髪に遊郭街には似合わないきっちり着込んだ服装。
ぱっと見、綺麗な顔だけど真面目そうなやつだと思った。キライなタイプなはずなんだけど…目、離せないや。
なんで?
ソイツは鉢巻きの男に手を引かれてオレのいる遊郭の方へ向かってくる。
だけど、店に入るのを拒んでるみたいでなかなか進まない。やっと店の前まで来たけど、まだ何か言ってる。
オレは喧騒の中で二人の会話を聞き取ろうと耳を傾けた。
「ゆ、遊庵様!私、こういった場所は…」
「なんだ?おめぇもしかして未だに童貞か?」
「!…まさか!けっ、経験はあります!」
「ならいいじゃねーか。たまには生き抜き生き抜き…邪魔するぜ〜」
「…遊庵様っ」
あ、入って来た。あの銀髪のやつ、気になる…オレは立ち上がって下へ降りて行った。
二人がいる部屋の挨拶を終えた店主が調度出て来て、オレを見てすっごいびっくりしてた。
「螢惑、どうしてここに?このお客さんはお前を指名してはいないぞ」
「…うるさいな。オレが相手したいって思ったから来たの」
「!螢惑…」
店主の言葉を無視して部屋に入った。
二人の男に四人の遊女ね…結構いい身分じゃん。
鉢巻きの男は両手に華ってカンジですっごい楽しそうだけど、銀髪の方はなんか固まって緊張してるみたい。
こんなとこで正座してるやつ初めて見たし。
オレは銀髪の男の前に座って酒を注ごうと顔を覗き込んだ。
「あ、すまない…」
それで、そいつの顔間近で見た瞬間…心の臓が掴まれたように苦しくなった。
なんて綺麗なやつなんだろ。モロ好み。
じーっと顔見つめてたら横からコイツの相手してた女が口だししてきた。
「ちょっと螢惑、辰伶様はあたしがお相手するんだから」
「…うるさい」
「まぁ!」
二人の女は怒って部屋出てっちゃった。女ってすぐ癇癪起こすからウザいよね。
たいして綺麗もないくせに。
毎日毎日、違う男に足開いて金貰ってるあばすれ女には綺麗なこいつは勿体ないよ。
オレは隣に移動して上目使いで挑発的に言った。
「あんたの相手はオレがしてあげる」
「…女性にあのような言葉使いは失礼だぞ。それに…お前、確かに美しいが…男だろう?オレはそんな趣味はない」
あんな女に失礼も礼儀も無いと思うけど。
こいつやっぱ超真面目で世間知らずで箱入りだ。
さっき経験あるって言ってたけど…嘘だろうな。うん…オレにとってはそのほうが都合いいや。
まぁ、男同士は趣味じゃないってのはホントだろうけど…オレはお前のこと気に入ったからこんなことじゃ引かないよ。
肩に手を乗せて、身体くっつけるようにして…と。コレ、ここで教わった基本姿勢ね。
あ……こいつ細そうに見えたけど結構鍛えてある。身体…見てみたいな。
「心配ないし。男とか女とかどっちでもいいって思えるくらい、オレ、イイよ?」
「何がいいんだ?」
「お前を…気持ち良くしてあげるってこと」
「っ!?」
あ、ちょっと想像した?綺麗な顔がほんのり朱く染まった。
かわいい…そんな照れた顔されたらオレ我慢出来なくなるよ。早くこいつを感じたいな。
銀の髪を梳いて顔の輪郭をスゥ…と優しく撫でてやるとぴくって身体が反応した。
そのまま首筋に指を這わせて熱を持たせる様に何度も撫でる。
指先に伝わるこいつの体温が心地いい。
もう顔真っ赤…感じてるんでしょ?このままオレに身を任せちゃいなよ?
ホントは別室に行かなきゃいけないんだけど、我慢出来なくて押し倒そうと両肩に手を乗せたところで振り切るように立たれた。
「ゆ…遊庵様!私…先に帰らせ………あれ?」
「鉢巻きならとっくに女共と別室に行ったよ」
「え!!?」
「…何しにここへ来たか、知らないわけじゃないでしょ?」
「お…オレは…別に…」
言葉使いからするとあの鉢巻きが上司みたい。
上司を置いて先に帰ることはできず、どうしていいか迷っている男の手を掴んでオレは部屋を出た。
すれ違う女共から嫉みの視線が送られる。誰もがこいつのこと狙ってたんだ。押せば倒れそうな奴だしね。
そんな男の制止の言葉を聞かないフリをして連れて来たのはオレの部屋。
ここなら誰も邪魔はいらないから。ぐいっと部屋に押し込んで後手で襖を閉める。
ゆっくりと一歩近づくと二歩引かれた。…そんな露骨に逃げられるとなんか傷つく…。
「そんな警戒しなくても…オレはあんたと静かに話したいだけだよ」
「…さっき…」
「ん?あー…だってここに来る男はそぅゆうことシにくるもんだし…けどあんたは違うんでしょ?何もしないよ」
「……そうか」
男の回りから警戒が解かれた。釣り上がってた目も元に戻って…そんな簡単に人を信じちゃ危ないのに。
特にお前みたいなやつはね。
暗い部屋に蝋燭を燈して、部屋に常備してある酒を持って窓辺に腰掛けると何も言わないのにあいつの方から近寄って来た。
薄暗い部屋で燈籠に照らされた顔から目が離せない。
オレよりコイツの方が絶対綺麗。
よく今まで遊郭の奴にさらわれなかったよね。
猪口に酒を注いでやるとふっと笑みを浮かべて「ありがとう」って呟いて口に運んだ。
綺麗な指。形のいい唇。…触りたい。
何もしないなんて言わなきゃよかったな。ちょっと後悔してたらあいつが今度は酒を注いでくれた。
「まだ名乗っていなかったな…オレは辰伶だ。お前は?」
「オレ、螢惑」
「螢惑…いい名だ」
「そう?辰伶だって綺麗な名前だと思うよ」
ホント、何処までも全部綺麗なやつ。
あれからオレ達は酒を注ぎ合い、いろいろ話した。
それで確信した。やっぱこいつ箱入り世間知らず息子だ。なんかすっごい名家の跡取りで、腕も相当立つみたい。「師匠が最高の方」だの「吹雪様に教えて頂いた忠義が誇り」だの…酔ったこいつはその話ばっか。
誰だよ、吹雪って。
違う話に変えてやろうかと思ったけど、余りにも喜々として喋る辰伶見てたらとてもそんなこと出来なくなっちゃう。
コイツ、酔うと明るくてよく喋る…子供みたいになったし。
疑うことを知らない純粋な心と、桜花のような外見の綺麗さを持つ辰伶という人物にどんどん惹かれてく。
…何もしないって約束、取り消しきく?
オレは暗闇にキラリと鋭く光る下弦の月に問い掛けた。答えなんて返ってくるはずないけど……ん?誰か、ってゆーか辰伶に肩叩かれてる。
「けーいこく、もう酒がないぞー」
「…」
振り向くと息がかかるほどの距離に、酒のせいで目が潤んで頬がほんのりと朱く染まった、残りの人生でコイツ以上好きになるやつなんていないって思えるほど大好きな人の顔。
こんなの…我慢出来るわけない!
勢いに任せて辰伶のこと押し倒して、噛み付くように唇を貪った。
「んん!?おまっ…な、にも、しな…って!」
こんなやつと二人きりでいて何も起きないはずないよ!
辰伶の舌を絡めとるように吸ったり、軽く噛んだり…ザラリとした感触に溺れてく。
辰伶がオレの背中叩いたり引きはがそうとしてるけど、そんな力が入らなくなってきた身体じゃムリだね。
これからいっぱい気持ち良くさせてあげる。
もうオレの事しか考えられない程…。
朝の日差しと鳥の鳴き声で珍しく目が覚めた。
なんか、身体が怠いかも・・・昨日あんなに頑張ったからしかたない・・・かな?だって辰伶すっごいかわいかったんだもん。
突き上げられるたび何度もオレの名前呼ぶとことか、激し過ぎて意識も薄れてるのに腰だけははしっかりと揺れてるとことか・・・。
うゎ・・・思い出しただけで勃っちゃいそ・・・。
辰伶が目覚めたらもいっかいやらせてくれないかな。
隣で疲労の為、死んだように眠る辰伶の頭を撫でる。
それに反応して辰伶がうっすらと目を開いた。
「ん・・・ん?・・・け・・・けいこっ・・・!」
「うわ、何、その声?」
昨日の綺麗な声の面影はなく、掠れてよく聞き取れない。
それもそうか、昨日あんなに声出してれば喉も潰れるよね。
辰伶も自分の声にびっくりしたのか喉を両手で押さえ目パチパチさせてる。
きっと呼吸するのも辛いよね・・・ちょっと悪い事したかな。
オレはのそりと起き上がって棚に常備してある水を差し出した。
素っ裸で全く隠そうとしないそれを見ないように辰伶は湯飲みを受け取り一気に飲み干した。余程渇いてたんだ。
「どう?少しはマシになった?」
「・・・ああ、すまない。ありがとう・・・」
「あんまムリして喋らなくていーよ」
オレは辰伶が飲んだ空の湯飲みを棚に戻して、また辰伶の隣に寝ようと布団に手をかけた。
でもオレが入るよりも先に毛布を肩から被った辰伶が出て来た。
お前がいなくちゃ意味ないし・・・。
辰伶は毛布を被ったまま部屋中に散らばった服を探してウロウロしてる。
その様子・・・ぷぷっ・・・。やっぱコイツ気に入った。
「辰伶、もぅ一回シよ」
オレはその後ろを裸で付いて回った。
ギョッとした辰伶が足早に逃げ回る。こんな恰好で出られないからオレと辰伶は部屋の中をぐるぐるとおいかけっこした。
「!?付いてくるな!服を着ろ!!」
「着たら出来ないじゃん」
「なっ・・・止めろ!引っ張るな!」
オレは辰伶を包んでいる毛布を剥ぎ取ろうと引っ張った。
取られまいと必死の辰伶。
次第に目が潤んできて・・・あーなんか面白くなってきた。これ取ったらどんな行動起こすかな?
オレは引っ張る力を浚に強めた。
「離せ!・・・誰かっ・・・!!」
「辰伶〜、そろそろ帰・・・」
え?誰?
・・・・・・あ、こいつ確か辰伶と一緒にここに来た男。固まってオレ達を凝視してる。
・・・涙目の辰伶の毛布を剥ぎ取ろうとしている素っ裸のオレ。
何も知らないやつがこの光景を見たら…。
「こっ・・・の、変態!辰伶から離れろ!!」
やっぱり。すっごい速さでオレと辰伶の間に入って来た。
邪魔しないでよ。
「遊庵さまっ・・・」
辰伶が助かった・・・って声だして鉢巻きの男の背中に引っ付いた。
面白くない。なんかオレ悪者みたいじゃん。
オレは不機嫌さ全開で鉢巻き男と辰伶を睨んだ。
「昨日はオレの背中に爪たてて泣いてねだってたくせに…」
「なっ・・・///!」
「!?」
「オレのこともっと欲しいって自分から動いて、何回イっても止めない・・・・・・ぶふっ」
いきなり枕が飛んで来てオレの顔を直撃して畳に落ちてった。
もちろん投げたのは、真っ赤になって信じられないって顔して怒ってる辰伶。
だけど、毛布一枚で凄まれてもね・・・。
全く悪びれないオレに、怒りが込み上げてきたのか近くにある物を手当たり次第投げようとしている辰伶を鉢巻きの男が必死に宥めた。ばか・・・そんなに動いたら毛布取れて、裸見られちゃうのに。
「落ち着けって!な?…昨日の夜何があったか話してみ?」
「・・・はぁ、はあ・・・はい・・・」
辰伶は事細かに説明した。オレはその横で寝転びながらどうにかして辰伶の毛布を剥ぎ取れないかと久しぶりに頭を悩ませてた。
ってゆーか、早く服着ればいいのに。
言わないけどさ。
「・・・お前がここ一番人気の螢惑だったとは・・・。イメージが・・・・・・。っつーか、立場逆じゃね?」
「だって辰伶が綺麗だったから…」
「このっ///!理由になっとらん!」
「でさ、あんた誰?」
「おぅ、オレは遊庵様だ。覚えとけ」
「ふ〜ん・・・ヨロシクゆんゆん」
「・・・ゆんゆん」
「キサマ!吹雪様のご友人であり大四老の遊庵様に向かって・・・!!」
「辰伶・・・それよりオレはお前の格好のほうが気になるぞ・・・」
「はっ!!」
あ〜あ、言っちゃった。
ゆんゆんの言葉にサッと顔を赤らめた辰伶はさっき集めた服を持って隣の部屋へ消えていった。
辰伶の着替え・・・覗いちゃお。
襖のとこ来てそっと中覗こうとしたらゆんゆんに頭押さえつけられちゃった。
「おめーもだ!」
「?」
あ、オレも裸だったっけ。オレ別に気にしないのに・・・。
もたもた服着てると、ここに来た時みたいにきっちりとした辰伶が着替え終わって戻ってきた。
オレを一瞥して、ゆんゆんの隣に片膝ついて、
「遊庵様、帰りましょう」
と、きっぱり告げた。
もっとゆっくりしていけばいいのに・・・明日の朝までとか。
辰伶がスクリと立ち上がって出口の所まで歩き出した。ゆんゆんものそのそと立ち上がって後に続いてく。
じゃあ、オレも行こうかな。
三人続いてとんとんと階段を降りていると、不機嫌そうに辰伶が振り返って睨み付けてきた。
「・・・なんでキサマが付いてくる?」
「オレも行く」
「!?来るな!第一キサマはここの人間だろう」
「オレ特別だからいーの・・・あ、今までアリガト。オレ出て行くから」
「!!!???螢惑!!!待て!!」
調度歩いてきた店主にバイバイと手を振る。
後ろからしがみつかれたけど、思い切り突き飛ばして店から出た。
往来を歩く人がオレに視線を向け、何かを話し合っている。まぁ、ここら辺でオレのこと知らない奴はいないからね・・・。
もう、つまらない生活はおしまい。
オレがここにいたのは辰伶に会う為。
オレが今まで誰とも寝なかったのは初めてを辰伶にあげたかったから。
「おい!勝手に決めるな!!」
「オレは別にいいけどな〜。こいつ面白そうだし・・・オレが引き取ってやる」
「そんな・・・遊庵様!」
「しんれー、毎日シようねvオレ、上手だから飽きる事絶対無いよ」
「!!っの、不埒ものーー!!」
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もっと、こう・・・妖艶な雰囲気とかだしたかったのに・・・
螢惑がただの変態に・・・