「オレほたる。よろしくね。教科書ないから見せて」





オレの左隣りの席に変なやつが転校して来た。
ぼーっとしたやつで、教科書どころか鞄さえも持っていない。
だらしのない制服の着方に金髪…これがヤンキーというやつか?
だとしたら、余り関わりたくはないが…困っているのであれば仕方ないか。
机をくっつけて教科書を真ん中に置いた。
オレは余り視力が良いほうではないので、椅子ごと左側に移動させた。
…何でお前まで寄ってくるのだ?

「よく見えない…」
「…?あぁ、お前も視力悪いのか?」
「かもね…」

自分の事なのに「かもね」とはなんだ。
そいつはずいっとオレの方に移動して来た。
…いくらなんでも近すぎないか?
肩が触れるか触れないかの距離。
ほのかに漂う香水の香の中にタバコの匂いがする。
こいつまさか…高校生のくせにタバコを吸っているのか!?
注意してやろうと顔を向けると目に入ったのは、太陽の光に透けてキラキラ光る柔らかそうな金髪、切れ長で長い睫毛の目、すらりと通った鼻筋…。
男に使う言葉ではないが、真面目に、女性にも負けず劣らず綺麗だと思った。
ついつい目が離せずに見入っているとそいつがいきなりこっちを向き、おもいっきり目が合ってしまった。

「な、なんだ…」
「お前綺麗だね。うん、女みたい」
「こいつ!人が1番気にしていることを…!」
「オレは男だ」
「知ってる。みたいって言ったの」

その瞬間頭の中にインプットされたのは「こいつは嫌なやつ」ということ。
やはり金輪際、関わらないようにしよう。
教科書も明日には揃うようだし、共通するような事もなさそうで、もう話すこともないだろう。
オレは視線を黒板に戻して、中間試験も近いことだし授業に集中しようとした。
先生が「テストに出るぞ〜」と言いながら黒板に数式の羅列を書いていく…だが、大事な公式も解き方も全く頭に入らない…。
何でかというと…隣のやつが頬杖ついてずっとこっちを向いているからだ!
気になってしょうがない。
けど、絶対向いてたまるかっ!オレとお前は他人だ!
無視を決め込んでいるとそいつは身をオレの方に少し乗り出し、机に突っ伏してオレを見上げる姿勢になった。
…それでもまだ見てくる。
こっちを見るな、前を向け、授業に集中しろ、教科書見ないなら机を離すぞ、言いたいことは沢山あったが
…オレも意地になってしまい頑として黒板だけを見つめていた。
そのうち、そいつは「うんうん」と一人で何かを納得したように頷き、浚にオレに近づいて来た。
ああ、もう!完璧にくっついてしまったではないか。
流石に無視しきれなくなり、ちらりと視線を向けた。

「…何なんだ?」
「…オレ、お前好きだな。ね、付き合おっか?」
「は?」
「取りあえず今日から一緒に帰ろうね」
「な!何を…!!?」

スコーン!

「辰伶!うるせーぞ、オレは慣れねぇことして気が立ってんだ!」

遊庵先生が投げたチョークが見事オレの額に直撃し、教室中がどっと笑いに包まれた。
くっ…今までこんな失態晒したことなかったのに!恨めしく騒ぎの元凶を睨み付けると…わ、笑われている!

「ぷっ…お前可笑しいね」
「き…貴様のせいだろうがー!」

「辰伶…てめぇはオレ様の授業が受けられねぇってのか〜?」
「もしかして、付き合ってる奴いるとか?」
「い、いえ…」

「なら大人しくしてろ!」
「お前のケータイにメルアド入れとくね(ごそごそ)」
「…はい」

「…ん?授業終わっちまったじゃねーか!てめーは今日居残りだ!」
「…ケータイ返すね。入れといたから、今日からヨロシクね。辰伶」
「…わかりました…」

最悪だ…。