「ロンって雲みたいよね」
ここは、グリフィンドールの談話室。
夕食も終わり、のんびりとしていたところソファの端で本を読みながらハーマイオニーがポツリと呟いた。
向かい側でチェスをしていたハリーとロンはそろって彼女を見たが、ハーマイオニーは顔を動かさず続けた。
「雰囲気がね・・・似てるのよ」
どこか独り言のように、しかし言い聞かせるように。
「ぼっ僕のどこが蜘蛛に似てるって!?冗談じゃない!あんないまいましいものと一緒にしないでくれ!!」
ガタンと勢いよく立ち上がり、ハーマイオニーに抗議の眼差しを向けながらロンが叫んだ。
いきなり大声をだしたロンにびっくりしながらハーマイオニーはちょっと考え、本をパタンと閉じこう言った、
「ロン?蜘蛛じゃなくて雲。空に浮いているアレのことよ。」
「えっ?」
―――雲?蜘蛛??ああ、何だ、そっちのことか・・・
よかったとロンは胸をなで下ろす。
クスクスと笑うハリーと、呆れるハーマイオニーを横目にロンはひっくり返った椅子を元に戻し、チェスを再開しようとした。
「ロン、顔真っ赤だよ?」
「ほっといてくれよ!ほんとにびっくりしたんだから・・・」
「ロンって本当に蜘蛛が嫌いなのね〜」
当たり前だ、誰があんなもの好きになるか。そう言いながらチェスの駒を動かそうとチェス盤に目をやるが、何かおかしい。
―――僕の駒がたりない・・・?
「いやいや、そこがロニー坊やのいいところ」
「まったくかわいいこった」
いきなりどこからともなく現れたフレッドに肩を抱かれ、騒いでいる間にジョージが駒をコンとチェス盤に置いた。
「ああっ!そこはダメッ!!」
ロンが駒を取ろうと手を伸ばしたが、それより速くハリーが駒を置いて、
「チェックメイト」
ハリーの勝ち。
「あらら、チェスの得意なロニーが負けちゃいました」
「珍しいこともあるもんだな」
「君達のせいで負けたんだ!!あのままいけば僕が勝ってたのに」
ロンががっくりと肩をおとす。
「ありがとう。フレッド、ジョージ。初めてロンに勝ったよ」
でも、いつまでもロンにくっついているのはどうかな。ハリーはフレッドを見た。
それに気がついたジョージは、
「我らがハリー・ポッターがお怒りだぞ。フレッド君」
「おお、それはすまないことをした。」
フレッドがロンの肩から手をはなし、ハリーに軽く会釈しながら、
「ささっ、ハリー。君もどうぞ」
―――何言ってるんだ。ハリーがそんなことするわけないじゃないか。
そう言いたげな目でハリーをチラリと見る。
「そうかい?じゃあ遠慮なく・・・」
―――・・・えっ!?
ハリーはガバッとロンに抱きついた。
「もうっ!君まで!?」
ソファの上のハーマイオニーは、それを見て頭を押さえながらはぁ〜っと深いため息をついた。と思うと次の瞬間、はい、終了という双子の声とともにハリーがロンから引き離される。
「「ロンに5秒以上触れられるのは、僕たちだけ」」
ハリーの両腕をしっかりと掴み、ずるずるとひっぱってソファの上に降ろした。
「なんだよ、それ・・・?」
ロンが怪訝な表情を双子に向けながら呟いた。
ロンの元に戻ってきたフレッドが、だからぁ、と言いながらロンの頬に軽くキスをして抱きついた。身動きの取れないくらい深く抱かれ、ロンの顔が赤くなっていく。
「ロンにこんなこと出来るのは、僕だけなの」
「何言ってんだ。俺もだろ?」
「そうだっけ?」
「そうだ。だから・・・ロンから離れろ!」
「嫌だよ」
ムッとしたジョージは、方眉をあげながらゆっくりとロンに近づく。
そっとロンの頬に両手をあてて、そしていきいなり・・・ちゅっ。
「「「・・・っ!!??」」」
談話室内にいた人全員が目撃した。
ジョージがロンの唇にキスをした衝撃の瞬間を。
「じょっ・・・うあ・・・わ」
ロンは真っ赤になって、フレッドの腕の中で俯きながらフルフルと震えている。
「ジョージ!お前、なんて羨ましい事したんだ!」
「そうだよ。ロンの可愛い唇を奪うなんて!」
「だって、フレッドがロンから離れないんだもん」
「そーゆーのは部屋でやるもんなの」
といってフレッドはロンの手を引いて部屋から出ようと歩き出した。
「どこにいくの?」
ハーマイオニーが不思議そうに聞くと。
「そーゆーのを部屋でやってくる。」
笑顔で答えるフレッド。
・・・頭が痛いわ・・・。
暴れるロンの手を無理やり引いてフレッドが部屋から出そうになった時、
「待て、相棒」
止めに入ったジョージにロンが嬉しそうに顔をあげた。
「俺もまぜろ」
「そう言うと思ってたぜ、相棒」
なんなの、この二人・・・
「僕も行きたいな〜」
・・・もとい、三人。
「三人か、これで限界だろ?ロン?」
「何がだよ!?てか、手離してよ!!」
もちろん離すはずがない。
ロンの訴えを無視して、三人はどんどん話を進める。
「「何がって・・・なぁ?」」
双子が同時にハリーに意見を求め、
「うん、そんな事ここじゃ言えないよ」
ハリーは満面の笑みで答える。
この三人、こんなに気が合ったかしら?考えてる事は一緒ってこと?
ハーマイオニーは、もうどうでもよくなってきたので読書を再開することにした。
「・・・は〜まいおにぃ〜・・・」
ロンが今にも泣きそうな声をだして、助けを求めてきた。
ロンの目を見て、申し訳なさそうにひとつウインク。
―――ごめんね、ロン。今日はどうにかして自力で逃げて頂戴。
その意味を悟ったロンが、はぅぅとか言いながら、脱力した。
「何だ、君たち。アイコンタクトってやつかい?」
「いつからそんな仲になったんだ」
「ハーマイオニーより俺の方がおススメだぞ」
「ん?ロン、何震えてるんだ?」
「寒いのか?暖めてやるから、さあおいで」
フレッドがロンの手を離し、自分の手を大きく広げる。
その隣でジョージも手を広げた。
「フレッドより俺の方がおススメだぞ」
「君たちに怒ってるんだぁ!!!!」
談話室に響き渡るロンの叫び。
と、同時に談話室から飛び出して走って逃げ出した。
「ロンが逃げた!追うぞ野郎ども!」
「「イエッサー」」
どたばたとうるさい足音をたてて三人は談話室を飛び出し、ロンを追っていった。
あっけにとられる談話室内の生徒の中、ハーマイオニーはやっと静かになったとため息を漏らしながら小さい文字の羅列を追うことに集中し始めた。
どこへ逃げる訳でもなくロンはホグワーツ内を走り回っていた。
後ろからはすぐに捕まえられるくせに、まるでロンが逃げる姿を楽しむかのように笑いながら走ってくる双子とハリー。
「ロン〜、逃げることないじゃないか〜」
「君たちが追ってくるからだろ!?」
「だってロンと遊びたいんだもん〜」
「君たち三人で遊べばいいじゃないか!?」
「それは無理だよ。ロンがいないと出来ない遊びだもん」
「どんな遊びだよっ!!?」
誰か助けて・・・。
この際スネイプでも、フィルチでも、マクゴナルゴでもいいからこの状況を止めてほしいとロンは心から願い、走り続ける。
―――止めてくれたら部屋の大掃除でも、トロフィー磨きでも、肖像画拭きでも、庭の木の伐採でも何でもするから!!!ドラコ・マルフォイと一週間同室でもいい!!!(ちょっと後悔しそうだけど・・・)
何も考えずに走っていたせいでいつの間にか正面玄関にきていた。
―――このまま外に出て大丈夫かな・・・?箒でも持ってこられたらおしまいだ。でも後ろには戻れないし・・・どうしよう!!!
絶体絶命大ピンチとはこのことだ。
ロンの体力ももう残り少ない。
「いい加減諦めてよ〜!!」
ロンがパニックになりながら外に続く通路を曲がろうとしたとき・・・
ドンッ!!!
後ろ向きに叫んでいたロンは、前から来る人に気づかずぶつかってしまい、相手に覆いかぶさるように倒れこんでいた。
「いっ・・・たぁ〜・・・はっ!ごめん!大丈・・・夫・・・?げげっ!!」
「っつ・・・そんなに走り回れるくらい広い室内が嬉しいのか?」
「なんだと!?お前だって分かってたら誤らなかったのに!」
ぶつかった相手はドラコ・マルフォイ。後ろには相変わらずクラッブとゴイルが突っ立ってる。
「早く僕の上から退いてくれないか?その下品な赤毛がうつってしまう」
「そうなったらお前もウィーズリー家の一員だ。言われなくても退くよ」
「面白くない冗談だな・・・吐き気がしてきた」
「僕も自分で言って後悔してるよ」
ロンとドラコが嫌味の言い合いをしていると、追いかけてきたフレッドとジョージが口を合わせて叫んだ。
「「5秒ーーーーーーーー!!!!!」」
双子がロンの足と腕を掴んでヒョイと持ち上げた。
床には唖然としたドラコが見える。
―――あ〜あ。追いつかれちゃった・・・。ドラコなんかにかまっている場合じゃなかったんだ。
双子に抱えられながらロンは、はぁ〜っとため息をはいた。
やっと追いついてきたハリーがゼイゼイと荒く息をつき、床に座り込んでいるドラコに渋い顔をしながら近づく。
「やぁ、珍しいね。君がそんな所に座っているなんて。結構地面が似合ってるよ」
ハリーの言葉にむっとしたドラコは立ち上がり、砂を掃いながらハリーを睨む。
「どっかの赤毛が凄い勢いでぶつかってきたんだ。さすがの僕も避けきれないくらいにね。やはり体力バカには勝てないね。」
そう言いながらまだ双子に抱えられているロンを見た。
「なんだと!マルフォイ!!」
双子の間でじたばたとロンが暴れる。
「もう逃げないから、離してよ!!待ってろよ、マル・・・うわぁっ!!」
双子が同時に手を離しのでロンは床に叩きつけられた。
「「あ、悪ぃ」」
ホントに悪いって思ってる?ロンはずきずきと痛む腰を擦りながら双子に非難の目を向けた。
「腰うった?撫でてやろうか」
言うフレッドを無視してドラコの正面に立つ、といきなりドラコの胸倉を掴む。
ドラコは驚きながらも平然とした態度で自分の胸元にあるロンの手首を握る。
「僕を殴るのか?ウィーズリー。そんなことをしたら五百点は減点だな。その上お前は罰としてトロフィー磨きだ。」
「そんな奴ほっとけばいいよ。ロンもう行こうよ。」
―――ハリーはそう言うけど一発でも十発でも、今までのことを考えれば百発殴ったって気 がすまない。いや、もう殴るくらいじゃ済まない。一番恐ろしい呪をかけてやりたいよ。でもそんなことしたら、停学どころじゃなくなるかも・・・。けどもう限界だし・・・でも・・・。
ドラコの胸倉を掴みながらロンは悶々と考え続けた。
黙り込んでしまったロンにハリーとドラコはただただロンの行動を待つ。
―――ロン何考えてるんだろ?ドラコなんてほっといて早く二人きりでチェスがしたいよ。てゆーか、あいついつまでロンの手首握ってるんだ。切り落としてやろうか・・・。
―――こいつ、いい加減に離してくれないかな。可愛い行動ばっかとりやがって。そろそろ理性が切れそうだ。いっそこのままキスでもしてやろうか・・・。いや、むしろ押し倒して・・・。
危ない二人が危ない事を考えていると、ロンの両端に双子がやってきた。
「ロン、お前がこいつを殴ったり、呪をかけたりするのは一向に構わん、大いに協力してやる・・・ところが!」
「いつまでもそいつに手を掴まれてるのは大いに気に入らない!」
フレッドがロンの腰に抱きつき、ジョージがドラコの頭を羽交い絞めにし、両方から引っ張った。
「なっ!フレッド、離してよ!!くすぐったい!」
「ロンの腰は細いな〜。可愛い可愛い」
「こら!あんまり触るな!俺はこいつで我慢してるのに・・・はあ・・・」
「嫌なら離せ!!」
「お前こそ、ロンの手離してよ!」
周りの生徒の呆れたような視線も気にせず五人はぎゃあぎゃあと騒ぎ続けた。
ラチがあかない・・・そう思ったロンはある賭けに出た。
「マルフォイ・・・本当は嫌なんだからな!!」
そう叫びつつロンはマルフォイに抱きついた。
「「「「!!!!!!」」」」
フレッド、ジョージ、ハリー、ドラコは驚きでパッと手を離した。
今だ!ロンは四人の横をすり抜けすごいスピードで走り去っていってしまった。
ぽつんと取り残された四人は唖然とした表情でその場に立ち尽くす。
「ロンが・・・自分から抱きついた・・・」
「しかもドラコ・マルフォイに・・・」
「嘘でしょ・・・?ロン・・・」
ショックで顔が青ざめる三人。
「ウィズリーめ、やっと僕の魅力に気づいたか」
顔を赤らめ、当たり前だといった表情のドラコ。
しかし、内心は心臓ドキドキで思考回路がおかしくなりそうだった。
―――あいつ今僕に何したんだ!?自分から抱きついたぞ。これは告白ととって間違いないな。そうとしか考えられん!早くお父上に知らせないと。結婚式は超一流のホテルで決まりだな。結婚後は白い家に、ゴールデンな犬に赤いバラ・・・。朝の目覚めには頬にキスは欠かせない。赤い髪に似合う赤いエプロンを・・・・・・・・・。
いや、もうおかしくなっていた。
しかし、背後の三つの殺気によってドラコの幸せ妄想は中断された。
「「「お前ごときがぁ・・・」」」
ヴォルデモートもびっくりの形相で三人はドラコに殴りかかった。というより三人がかりでくすぐりかかったと言ったほうがいいか。
「あははははっ・・・やめっ!ひゃはははっ!!・・・ぜいぜい・・・」
「「まだまだたり〜ん!」」
「ぎゃはははははっ・・・はっは・・・・・・」
「もっと苦しめ〜〜!!」
くすぐる三人は楽しくなってきて笑いながらドラコをくすぐる。
ドラコが息も絶え絶え笑い続けているのをロンは遥か上の階段で見ていた。
「まったく、ばかばっか・・・。ホントは仲いいんじゃないのか?」
四人が聞いたら激怒しそうな台詞をロンはクスクスと笑いながら言う。
いつも退屈しない、退屈させてくれない、そんな君たちが大好きだよ。
きっと図に乗るから絶対言ってあげないけど。大大大好き。
「あら、あなたは入らないの?」
振り向くと本を大量に持ったハーマイオニー。
「まさか、そうそう付き合ってられないよ」
ニヤリとロンが笑う。
「重そうだな、寮まで手伝ってあげようか」
「ぜひお願いしたいわ」
本の半分をハーマイオニーから受け取り、二人は寮に向かって歩き出す。
寮につき女子寮の前まで来たロンはハーマイオニーに本を渡した。
「ありがとう。助かったわ」
「どういたしまして。お役に立てて光栄だよ。じゃあね」
自分の部屋へ戻ろうとしたロンはハッとして立ち止まる。そして振り返り不思議そうな顔をしているハーマイオニーに向かって、
「ああ、君も大好きだよ」
屈託のない笑顔でそう言うとロンは階段を登って部屋へ帰って行った。
ハーマイオニーはいきなりの出来事に驚いたが、ロンの後姿を見送り、クスッと笑みを零した。
「それは光栄だわ」
いつも通りの平和なホグワーツの一日。だけど、今日は何だかいい気分。明日はどんな気分を味わえるのかな?ロンはそんなことをベッドで考えながら深い眠りについていった。