眠れない…。
壬生再建のため今日は肉体労働的な任務だったので身体は疲れているはずなのに、どうも頭が冴えている。
何回も布団の上をごろごろしたり、読み掛けの本を手に取ってみるも…どうも眠気が来ない。
こんなことをしていても仕方がない…オレは部屋を出て散歩に出ることにした。
漆黒の空にはぽっかりとした満月。
丁寧に手入れされた庭には幻想的な灯籠が立ち並んでいる。
オレは何処へ向かうともなく陰陽殿を出て歩みを進めた。
木々に回りを囲まれ、冷たい風が頬を掠めても歩き続けた。
春という季節になって昼は暖かいが夜はまだ少し冷える。羽織りの袖にすっぽりと手を隠し己を抱きしめるように温かさを得た。
ふと、見上げた空に何かがひらひらと飛んでいるのが見えた。
それを掴もうと手を延ばしたさきに飛んでいたものは自らオレの手の中に納まった。
これは…桜の花びら?まだ桜が咲くには早いはず。一体何処から?と回りを見渡してみると、先ほど飛んで来た花びらと同じ方角からまた一枚の花びら。
オレは花びらが来た方角に歩みを変えた。
しばらく歩いていると微かに水の音が聞こえてきた。
こんな所に滝などあっただろうか?
不思議に思いながらも音がするほうに近づくとさぁ…っと視界が開けた。
そこにあったのは、見事に満開に咲き誇った一本桜と小さいが蒼く底が見えるほど透き通った池、開けた空に浮かぶ満月。
池には桜と満月が写り、水の蒼さと月の光のせいで光り輝いている。
オレは自分の目を疑った。
この地にこれほど美しいものがあるのだろうか?
ひらひらと舞う桜吹雪に誘われて近くまで行ってみると、木の陰に一人の男が座っているのが見えた。

「あれ、こんばんは。辰伶さん」
「真田…幸村」

酒瓶を片手に人懐っこい笑みを向けてくる秀麗な男。
その笑みは、舞落ちる桜の花びらさえも引き付けるようだ。
だが、この男、九度山に帰ったのではなかったか?

「…何故?ここに?」
「お花見v九度山の桜もキレイだけど…ここの桜は特別だから」
「特別…?」

含みを持たせた真田幸村の言葉に疑問を持った。
確かにここは格別に美しい。
だが、桜自体にはなんの言われもなくただ、咲くことが少し早かっただけの普通の木だ。池も同じこと。
一体、何が特別だとゆうのだろう?
もしかしたらこの地の何処に何かあるのかもしれない。
そう思い辺りをキョロキョロと見回していると、幸村が面白そうに笑いながら言った。

「だってね、ここにはあなたがいるから」
「何?」
「辰伶さんとお酒呑んでみたかったんだv」
「…オレと呑んで何が楽しいのだ」

酒を呑むことは嫌いではないが、気の利く会話も出来ないし、幸村との共通の話といったら昔話だけ。
忘れていいわけではないが…口には出したくないことだ。それ以外は…全く思い付かん。

「楽しくお酒を呑むのも好きだけど、たまにはこーゆー所で静かに呑むのもいいかな〜…って思ってさ。これは辰伶さんにぴったりでしょ?」
「…そうか、では付き合ってやろう」

オレも同じだ。静かに、この雰囲気を楽しみたいと思っていたからな。
幸村の隣に腰を降ろすと猪口が差し出され、酒を注がれた。
注がれた酒を見つめていると、ひらひらと舞落ちてきた花びらと天上の月がオレの猪口に彩りを与えた。
オレは月の光に照らされ揺らめく花びらごと一気に酒を飲み干す。ゆっくりと口から猪口を離して、ふぅ、と一息着いた。
酒が喉を通り抜ける心地よさに、未だ辺りを埋め尽くさんと舞続ける花びらをうっとりと見上げた。
「綺麗だね…」
「ん?…ああ、そうだな。こんな優美な風景…滅多に見ることは出来ないだろう」
「風景もだけど……」

意味深に言葉を切った幸村を不思議に思って顔を向けると、いきなり視界がぼやけて唇に何か柔らかいものが当てられた。
何が起きたのか分からず、身体を動かすことが出来ない。
それが幸村の唇だと分かったのは、ちゅっと軽い音を立てて顔が離れてからだった。

「あなたの事だよ」

オレの唇に人差し指を当て幸村は悪戯っぽく笑った。
その手を払いのけ、唇がヒリヒリするくらい袖で擦ると幸村が大袈裟なくらいがっくりとうなだれた。

「あ、ひどーい、傷つくなぁ」
「…どういうつもりだ?場合によっては殺すぞ…」
「怒らないでよ〜。言ったでしょう?貴方みたいな人嫌いじゃないって」

こいつ…飄々と…。

「むしろ、だぁい好きv」

動物のようにガバッと抱き着かれ、そのまま倒れ込んでしまった。
勢いよく地面にぶつけた後頭部が痛い…。
とゆうか、何だこの体制は!幸村に乗っかられ、起き上がることが出来ない…早く退け!

「あvいい体制。…もいっかい…」

ちゅ。

「〜〜っ!!?」
「辰伶さん、顔真っ赤だよ。かわいー」
「かわ…!?」

オレの何処が可愛いとゆうのだ!貴様の目はまともに見えているのか!?いや、むしろそれ以前に、オレに好意をよせるという精神は大丈夫か!?
そうか、酒の飲み過ぎでおかしくなったのだろう。
こんなたわけ事をしてくるのは螢惑一人で十分だ!
浚に接吻を求めてくる幸村を必死に押し退け、特大の水龍をかましてやった。

「ぷわっ!冷た〜い!」
「…目が覚めただろう?…悪酔いしすぎだ」
「あはは、ごめんなさぁい。ジョーダンだよ、怒らないで」

まさに、してやったりと言った感じでケラケラと笑う幸村。
この男は…冗談だと!?貴様は冗談で男と出来るのか!?接吻とはそんなに軽い行為ではないだろう!想いの通じ合った男女の大切な愛情表現のはず。
びしょ濡れの幸村を見下ろし、冷たく叱責した。

「…冗談でしていいことではないだろう…」
「だって、冗談って言っとかないと困るのは辰伶さんの方でしょ?」
「は?何でオレが…?」
「今のが冗談なんかじゃなかったらぁ〜…」

なんだと言うのだ。
暫く続きを待ったが、それ以上幸村は口を開くこともなく、ただオレをじっと見つめてくるだけ。
オレも続きが気になったので対抗するように幸村の視線を受け止めた。
風に吹かれサワサワと木々が擦れ合う音。
ヒラヒラと視界を桃色に染め、舞続ける桜の花びら。
見つめ合っている時はそれらがスローに思える。
そのスローの世界を破ったのはガクリと肩を落とした幸村の大きなため息だった。

「…わっからないかなぁ〜↓↓」
「むっ…やはり、貴様とは相成れぬ仲だ…邪魔したな」

オレは貴様ではないのだ、言葉で言わなければわかるはずないだろう。
いささか飲みすぎたのか、視界が揺れる。
木を支えに立ち上がり苛立つ心を抑え、幸村に背を向けその場を後にした。
しばらくして幸村から文が届いたが、そこには一本の桜の枝と一言「本気で奪いにかかっちゃうよ」と。
一体何を奪いに来るの全くわからぬ。







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幸村×辰伶はほのぼのもいいけど、艶っぽいカンジの方が
好きだな〜ということで。
タイトルと内容がかなりかけ離れてますね・・・




2008/05/02